8月28日「男の敵」

「男の敵」('35・米)監督:ジョン・フォ−ド 脚本:ダドリ−・ニコルズ 撮影:ジョゼフ・H・オ−ガスト 音楽:マックス・スタイナ−
出演:ヴィクタ−・マクラグレン/ヘザ−・エンジェル/プレストン・フォスタ−
アイルランド独立運動の中、賞金欲しさに仲間を密告してしまった地下組織の元一員。だが、その仲間が警官隊に射殺されてしまったために、男は組織からの追及を受けることになる。ほんのわずかな夢を見ようとした酒飲みの一夜の悲劇を通して、アイルランド系のJ・フォードが揺れ動く激動の時代を描く。アカデミー主演男優・脚色・音楽・監督賞受賞。

◎大男で気持ちの優しいジポ−(マクラグレン)は命じられた処刑を果たすことが出来なかったために組織を除名され、食うや食わずの生活に陥り酒浸りの日々を送る。邦題を付けた人は酒を「男の敵」と考えたのだろうか。彼の優しさは堂々とした戦闘の中では弱みにはならないのだが、陰険な権力闘争の内にあっては致命的な弱点になる。そのことを分っていたはずの上層部が、その彼に冷酷な心を持たねば執行出来ない処刑を命じたことに、この悲劇の源がある。「男の敵」とは、優しさのことなのかも知れない。原題は「THE INFORMER」。破り捨てた親友の賞金付のポスタ−が街を彷徨うジポ−の足元に、何度振り払っても絡み付いて来るショットには、フォ−ドのあの運命を見据える鋭い眼差しさえ感じられる。呑気呆亭