8月3日(金)「天狗飛脚」

「天狗飛脚」('49・大映京都)監督・脚本:丸根賛太郎 撮影:川崎新太郎 出演:市川右太衛門/小杉勇/志村喬/羅門光三郎/加藤大介/相馬千恵子
★鬼才・丸根賛太郎の脂の乗り切っていた当時の作品。新興と老舗、対立するふたつの飛脚屋の企業戦争に、江戸を荒らす俊足の怪盗や、蔓延する熱病に命を賭ける蘭学医などを絡ませ、舞台は江戸から大阪へと走る……。
往年の「右門捕物帖」の“アバタの敬四郎”を思わせる志村喬の演技が絶品の痛快時代劇。(ぴあ・CINEMA CLUB)

片岡千恵蔵を醜男の蠣太に変身させて傑作「赤西蠣太」を撮った伊丹万作の向こうを張ってか、天下の旗本退屈男をまるで冴えない風貌の「天狗の長太」に変身させて撮ったこの「天狗飛脚」は、伊丹の作品に勝るとも劣らない丸根賛太郎監督の快作である。もっとも丸根賛太郎はすでにその監督デビュー作「春秋一刀流」で片岡千恵蔵の蠣太とはまた別の一面を引き出す傑作をモノしているのだから、伊丹・山中という天才の系譜を嗣ぐ者であったと言えるだろう。しかもそのギャグセンスは伊丹・山中を超えるモノがある。
この作品でもそのギャグセンスは縦横に発揮されているのだが、特に天狗屋の金仏の六助(原健作)・もぐらの太平(加藤大介)・はやての文太(坂東要二郎)のトリオが大いに笑わせてくれる。ギャグの鉄則は繰り返すことにあるのだが(三人揃って暖簾に首を突っ込むギャグ)、随所に出てくるこのトリオのギャグあってこそ、天狗の長太(市川右太衛門)の活躍が光るのである。呑気呆亭