7月18日(水)「姿三四郎」

姿三四郎」(43・東宝)監督・脚本:黒澤明 原作:富田常雄 音楽:鈴木静一 出演:藤田進/轟夕起子/大河内伝次郎/月形龍之介/志村喬
★日本が世界に誇る偉大な映画監督・黒澤明の記念すべき監督デビュー作。柔道の素晴らしさを知った主人公姿三四郎が、柔道を通じて人間的に成長していく姿を繊細かつダイナミックに描いた痛快娯楽作品。明治15年柔術を志していた三四郎だったが、矢野正五郎と出会い柔道の素晴らしさを目の当たりにした三四郎は矢野を師と仰ぐことに。厳しい修行のおかげでみるみる力をつける三四郎だったが、それはいつしか慢心を生み……。本作が製作されたのは戦局も押し迫った1943年。映画が国威発揚を目的としてつくられていたこの時代に、ユーモアを忘れず登場人物の人間性にも焦点を当てようとする監督の意気込みに強い意志を感じずにはいられない。ただし、それがために公開翌年の再上映の際、監督のあずかり知らぬ所で、三四郎の恋愛感情が表現されているシーンなど多数のカットがなされ、戦後、消失したフィルムの大半はついに発見されることなく今に至るという不幸をも背負ってしまった。(allcinema)

◎処女作にはその作家のすべてが表れるとはよく言われることだが、まさにこの映画にも良かれ悪しかれクロサワの特徴が表れている。劇的な場面に劇的な音楽を多用する分りやすい娯楽性の追求といい、人物の類型的な造形といい、男と女の交情のシ−ンの不器用さといい、後々に至るまでのクロサワらしさが全編を貫いている。しかしながら、三四郎が矢野正五郎の人力車を曳くために投げ出した朴歯の下駄の転変で時間の経過を表すシ−クエンスは秀逸であり、三四郎(藤田)と小夜(轟)の出会いと恋の進展をスラップスティックな手法(不器用ではあるが)を用いて語るところなどには好感が持てる。しかし、この作品が娯楽映画としては傑作であると認めつつ、ラストの雲が流れススキが強風になびく悪役桧垣との決闘シ−ンの盛り上げ方の類型性には、後々のクロサワ作品を見返す時と同じく、そのクドサに辟易せざるを得ないのだ。呑気呆亭