7月11日(水)「M」

「M」('31・独)監督・脚本:フリッツ・ラング 出演:ピ−タ−・ロ−レ−/オット−・ベルニケ/グスタフ・グリュンドゲンス
★犯罪映画の古典的名作。「ドクトル・マゼブ」「メトロポリス」とサイレント時代のドイツで次々と傑作を生みだしたフリッツ・ラングが初めて手掛けたト−キ−映画でもある。
題材は、当時“デュッセルドルフの吸血鬼”と呼ばれドイツ中を恐怖に陥れた連続殺人事件にとっている。小学校の女生徒が残忍な手口で相次いで殺される。警察の執拗な捜査に音を上げた暗黒街の連中が独自に捜査を始める。その網に引っ掛かった男の背中に、後を付けていた青年が自分の手にチョ−クで「M」の文字を記し、その手で通りすがりに男の外套の左肩をはたいて「M」の文字を残す。Mは暗黒街の連中に追いつめられ地下室に連れ込まれて、怒りに燃える法廷に掛けられるのだが…。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎この映画の手柄はピ−タ−・ロ−レ−という怪優を世に送ったということであろう。彼が姿を見せた途端にこの映画を見る観客はこれが犯人だと直感する。それほどにこの人の存在感は不気味なものがある。その彼が犯罪の衝動に駆られると無意識に吹いてしまう口笛が、彼を特定するための重要な手掛かりになるのだが、まさにト−キ−というものの特性を生かしたラングの心憎いばかりの仕掛けである。口笛とナイフと風船と、使われる小道具が不気味な意味を帯びて生かされている。ラングという人の天才を感じさせる傑作である。呑気呆亭