7月10日(火)「間諜X27」

間諜X27」('31・米)監督:J・V・スタンバ−グ 出演:マレ−ネ・ディ−トリッヒ/ヴィクタ−・マクラグレン/
★映画は第一次大戦さ中のウィーンに始まる。土砂降りの雨の中、今日も裏街の娼窟で女が自殺した。救急車が来て亡骸を運んでゆくのをみつめるディートリッヒに名はない(彼女はさり気なくストッキングをずり上げ、その脚線美を見せつける)。“今にお前もああなるぞ”と声をかける警官。“私は生きることを恐れないわ。死ぬことも”と返す彼女。そのやりとりを見ていた男が彼女の客となり、間諜を持ちかける。反オーストリアかの問いに男が頷くと、彼女はワインを買いに出るふりで警察を呼ぶ。が、男は諜報局長官。その愛国心を讃えられた彼女は殉職した軍人の妻であり、X-27号のコードネームを与えられる…。(allcinema)

◎面白い映画とはこうやって作るのだと言わんばかりの作品である。仕掛けはピアノと猫とディ−トリッヒの衣装。一杯喰わされた諜報局長官がマリアに云う台詞“国に見捨てられても、君は国を売ったりせんわけか”が効いている。彼がマリアの部屋のピアノに向かって弾く「ドナウ河のさざなみ」を自動ピアノみたいねとからかったマリアが、長官をスパイと思いこんで引き渡した後に怒りにまかせて弾く曲は、同じ曲とは思えないモノであった。後に愛し合うこととなるロシア軍大佐(マクラグレン)と運命的な出会いをする仮面舞踏会では「美しき青きドナウ」が流れていて、潜入したポ−ランドで入手した情報を楽譜に仕込むアイデア(どういうことかは皆目不明だが)も秀逸で、ラスト、ロシア軍大佐を逃した廉で処刑される前にマリアが要求したのは、調律したピアノとかつての娼婦時代に着ていた衣装だった。
銃口を前にしたマリアは目隠しを拒否しその布で若き将校の涙をぬぐってやり、嫣然としてル−ジュを引きストッキングを直して向き直る。金銭のためには国を売らなかった彼女だが、愛のためには国も売ったのだった。その相手のロシア軍大佐を演じるマクラグレンが、フォ−ド映画の飲んだくれ軍曹とは違ってめちゃくちゃカッコいいのである。呑気呆亭