6月23日(土)「五人の斥候兵」

「五人の斥候兵」('38・日活多摩川)監督:田坂具隆 原作:高重屋四郎(田坂の筆名) 脚本:荒牧芳郎 撮影:伊佐山三郎 美術:松山崇 出演:小杉勇/見明凡太郎/伊沢一郎/井染四郎/長尾敏之助
★北支戦線を転戦していた岡田歩兵部隊に本隊から前方敵陣偵察の命令が伝えられ、部隊長は5名からなる斥候隊を送り出した。斥候隊は夜の草原を密かに駆け抜けていく。やがて遂に敵陣に近づいた。丘にさしかかった時、前方に敵のト−チカを見つける。敵は機銃掃射を開始。5人は身を隠すが、敵の大部隊に包囲されたことを知る。水流を頼りに退路を探すうちに、5人は離ればなれに…。
煽動的な戦意昂揚映画が多かった中にあって、本作はきわめて抑制された、いわばドキメンタリ−映画を見るような印象すら与える静的な作品である。日本の戦争映画で芸術的映画として評価された最初の作品といわれている。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎この映画の作られた頃の事象を列記すると、
1931年柳条湖事件満州事変
1932年満州国建国
1933年国際連盟脱退
1936年2.26事件
1937年7月盧溝橋事件/12月南京大虐殺
1939年9月英仏、ドイツに宣戦布告。第二次世界大戦勃発

ご覧のとおり時代は狂気の大戦に向けてなだれ込んで行くのだが、そうした時代にこれほど冷静に戦う兵隊の生活を克明に描いた映画を作ってしまった、田坂具隆という人の骨の太さには脱帽せざるをえない。田坂監督はこの映画の翌年にも火野葦平の原作を得て名作「土と兵隊」をやはり小杉勇の主演で撮っている。リアルであることが何よりもの主張であるということをこの映画は教えてくれるのである。
ちなみにこの年、日本記録映画の父・亀井文夫は撮影の三木茂とのコンビで「支那事変後方記録 上海」を撮り、翌年には同じコンビで「戦ふ兵隊」を撮ったが、その中国民衆たちの悲惨さを捉えた作品は軍の怒りを買い、公開禁止、戦争に批判的な映画人として投獄されたという。呑気呆亭