6月22日(金)「鞍馬天狗・黄金地獄」

鞍馬天狗・黄金地獄」('42・大映京都)監督・脚本:伊藤大輔 撮影:石本秀雄 出演:嵐寛寿郎/原健作/上山草人/沢勝彦/琴糸路/内田博子
★天狗を幕末から明治4年の横浜に登場させた名匠・伊藤大輔のオリジナル。ハリウッドの日本人スタ−・上山草人演じる悪徳ユダヤ商人の贋金偽造計画を天狗が阻止する。悪玉を西洋人にしたのは戦時中の締めつけによるもの。一般的には宣伝文句に使われた「鞍馬天狗横浜に現る!」が、そのまま題名として通用している。戦後には「黄金地獄」と改題された。

竹中労氏の「聞書きアラカン一代 鞍馬天狗のおじさんは」('76・白川書院)によれば、嵐寛寿郎は巨匠伊藤大輔とは初めてのシャシンであったが、のっけのロケ先で「寛寿郎クンご苦労ですが、全力疾走して下さい。右に左にバッタバッタと斬り倒しながら…」といわれて、「冗談やおへん、300メ−トル以上もある、全力疾走やて!刀ふりまわして走れる道理がない、“センセイ、これちょっと無理やと思いますけどな”」「ああ、そうですか、アナタニハ無理デスカ」といわれ、カチ−ンと来て無我夢中でこのシ−ンを撮ったのだという。アラカンさん、“出来上がった映画を見たらすごい迫力や、走るものやなあと、我ながら感激してしもうた、中略、これ、ぜひ見てほしい、ワテの代表作だと思ってますのや”と、竹中に語ったのだが、戦後、進駐軍の横ヤリが入って、このシ−ンはすべてカットされしまったのだという。
そのせいだけでもないのだが、映像が全体に暗くて見るのが辛く、やはり天狗を明治の世に持ってきたことの無理が祟って、重苦しい映画になってしまったのが残念だった。呑気呆亭