6月19日(火)「瀧の白糸」

「瀧の白糸」('33・入江プロダクション)監督:溝口健二 原作:泉鏡花撮影:三木茂 出演:入江たか子/岡田時彦/菅井一郎/村田宏寿/浦辺粂子/見明凡太郎
★水芸人である瀧の白糸は、旅興行の先で知り合った苦学生・村越欣弥の、人に媚びないきりりとした性格と将来の夢に惚れこみ、貧乏な村越のために仕送りをして法律を学ばせる。しかし、苦労して借りた金が奪われ、逆上した白糸は高利貸を刺殺して金を奪い捕われる。彼女を裁くために法廷に立ったのは立派に成長して出世した村越自身だった…。
名匠・溝口健二泉鏡花の原作をフラッシュ・バックなどの手法を多用して鮮烈に描いた意欲作。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎話そのものは新派劇のような悲話なのだが、主演の瀧の白糸を演ずる入江たか子が素晴らしい演技を見せる。男嫌いと評判の白糸が苦学生・村越欣弥に恋心を抱くプロロ−グでは、まるでおぼこ娘のような恥じらいを見せつつも、成熟した女体を村越に寄せて金を貢ぐ代わりにと関係を迫るという、実にアンビバレンスな演技を要求される故にかえって濃厚なエロチシズムが匂い出たのだった。
溝口健二の演出も、白糸と村越の出会いと心の通い合いと、検事と被告として向き合わなければならなかった悲劇的な結末に至るまで、類型的な性格描写に陥ることなくリアルで血の通った人物像を造形して見事であった。呑気呆亭