6月16日(土)「西部戦線異状なし」

西部戦線異状なし」('30・米)原作:エリッヒ・レマルク 監督:ルイス・マイルストン 撮影:ア−サ−・エディスン 出演:ル−・エア−ズ/ウイリアム・ベイクウェル/ラッセル・ダリ−ソン
第一次大戦中、ドイツ軍兵士として参戦して負傷し、戦場と病院を往復した体験にもとづいて書かれたレマルクの世界的ベストセラ−の映画化。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎ドイツ軍兵士として従軍したレマルクの原作をアメリカが映画化したということに違和感を覚えた。作品中で使われる言語は英語であって、若き学生たちを煽動して戦場に向かわせる教師が、ドイツ語風に英語をしゃべるのがわざとらしい。映画そのものは実写を思わせる戦闘シ−ンはすさまじい迫力で、まるでドキメンタリ−を見ているようであったが、ドラマとしては冗長で登場人物の性格描写も平板であり、学生たちが揃ってゲルマン的な風貌であることにも違和感を覚えた。
学生の中で最後まで生き延びた主人公が、休暇で故郷に戻って闘いを知らぬ連中に怒りを覚えるというのも類型的で、5年の戦闘体験が彼をどう変えたかの描写もなくて、塹壕から不注意にも身を乗り出して狙撃兵に撃たれて死ぬという感傷的なラストにも同情出来なかった。
確かにこの映画がこの時代(1930年)としては精いっぱいの反戦の思いを込めて作られたのであろうことは分るのだが、にも拘らず次の大戦に向かおうとする時流に対して竿差すことが出来なかったのは、これをドイツ国民が映画にしようと考えもしなかったことと、感傷に流れたラストを付け加えてしまった製作者たちの思想的な未熟さに原因があったのではなかろうかと、この映画が名作であることは認めつつ、考えてしまったのであった。呑気呆亭