6月7日(木)「出来ごころ」

「出来ごころ」('33・松竹蒲田)監督:小津安二郎 脚本:池田忠雄 撮影:杉本正二郎 出演:坂本武/突貫小僧/伏見信子/大日向伝/飯田蝶子
★坂本武演じる、どこか頼りないが人情には厚い男、喜八を主人公にした作品が小津安二郎には多くあり、いわゆる“喜八もの”と呼ばれている画、この「出来ごころ」はその第1作にあたる。
長屋に住む気のいい男喜八は、ある日いわくありげな少女・春江が道をさまよっているのを見つけ、めし屋のおかみにあづける。喜八とその相棒、次郎は次第に春江に心ひかれてゆく。小津の中期を代表する名作である。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎父と息子を描いた作品にチャップリンの「キッド」('21・米)があるが、この「出来ごころ」はそれに勝るとも劣らない名作だと思う。春江の次郎に寄せる気持ちを知ってから仕事もそっちのけで飲んだくれる喜八を、泣きながらその飲んだくれのオヤジの顔を両手でピシャピシャ叩いていさめる富夫がけなげで、思わず(涙)。
当時は、ビ−ル会社がその際に有ったのであろう小名木川から中川を経て江戸川に入り、明治23年流山市から柏市船戸までの利根運河が出来るまでは、関宿まで遡って利根川に入り銚子までという経路で、明治10年に就航した「通運丸」という川蒸気が活躍していたらしい。喜八が乗ったのは恐らくその航路を行く船で、銚子から大型船に乗り換えて北海道に行く予定だったのだろう。ラストに喜八がザンブと飛び込んで鮮やかな抜き手を切って岸に向かうのは、それ故江戸川という設定であったと思う。その流域に住む者としては懐かしい景色であった。呑気呆亭