6月5日(火)「学生ロマンス 若き日」

「学生ロマンス 若き日」('29・松竹蒲田)監督:小津安二郎 原作・脚本:伏見晃 撮影・編集:茂原英雄 出演:結城一郎/斎藤達雄/松井潤子/飯田蝶子
★現存する小津安二郎の作品の中ではもっとも古い作品。一般的に小津作品は、後期の印象からロ−アングル、固定画面のスタイルで広く知られているが、この「若き日」をはじめとする初期の作品群にはまったく違った小津のスタイルが散りばめられている。冒頭、主人公たちの住む早稲田の学生下宿を映しだすまで、カメラがパンにつぐパンを繰り返し、目まぐるしいまでのスピ−ド感を生むさまを見れば、後期の小津作品しか知らないファンは目を丸くすることだろう。物語は小津が初期に得意としていたカレッジもののコメディ。キ−トン、ロイドなどのアメリカンコメディ映画を下敷きにして、たたみかけるようなテンポで展開する爆笑ものの一編だ。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎長尺のそれほど軽快でもないコメディで、ギャグも秀逸というほどのものではないのだが、'03年生まれの26歳の新進監督としては思い切った冒険を試みた作品であったのだろう。主人公たちが片時も紙巻タバコやパイプを口から離さないことに今日では違和感を覚えるが、当時の高等遊民には普通の風俗でもあったのだろうか。
下宿では和服で過ごし、学校には制服で登校し、スキ−には今見てもかなりお洒落な衣服で出掛けるのが面白く思えた。主人公二人のスキ−場まで出かけての雪まみれの恋のさや当てが、結局二人とも見事に振られて、やれやれと観客に思わせて一種の気持ちの良さでシャシンを終わらせた所に、演出の小津、脚本の伏見、撮影の茂原のトリオの“オレたちは新しいことをしているんだ”との意気込みと才気が感じられたのだった。呑気呆亭