5月24日(木)「番場の忠太郎 瞼の母」

「番場の忠太郎 瞼の母」('31・千恵蔵プロ)監督・脚本:稲垣浩 出演:片岡千恵蔵/浅香新八郎/常盤操子/山田五十鈴/瀬川路三郎
長谷川伸の名作戯曲を、当時新進の監督・稲垣浩が演出。片岡千恵蔵は、この年と翌年に、稲垣や伊丹万作と組み、「一本刀土俵入」や「花火」そして「国士無双」など質の高い時代劇を自らのプロダクションで製作、主演している。
物語は、おなじみ・渡世人の番場の忠太郎が、幼いころに生き別れた母と出会い、精神的に葛藤するという人情もの。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎自身が母と生き別れになったという経緯を持つ長谷川伸は、この自伝的ともいえる作品には思い入れが強すぎたらしく、大詰「荒川堤」の場に、定本では忠太郎は追ってきた母と妹に背を向けて去るのだが、それではアンマリだと、“おッかさあン―おッかさあン―”と叫んで忠太郎が戻って来る「異本」を用意してしまったのである。脚本を書いた稲垣は、その異本を選択し忠太郎母子を最後に和解させてエンドマ−クを打つ。
ちなみに、この映画が上映された翌々年の1933年に、長谷川伸その人も四歳の時に生き別れた「瞼の母」に47年ぶりの再会を果たしたのだった。呑気呆亭