5月8日(火)「御誂次郎吉格子」

伊藤大輔大河内伝次郎、唐沢弘光カメラマンのトリオは、サイレント末期に時代劇の傑作を次々と生み出していたが、これもその中の一編。
江戸を逃れて上方へ向かう次郎吉(鼠小僧)は、船の中で出会った女・お仙といい仲になる。大阪へ着いた次郎吉は、自分の悪業から没落した貧しく美しい武家の娘・お喜乃を、お仙の兄・仁吉の毒牙から救い出し、決着をつけるべく御用の網の中を仁吉の家に乗り込む…。
映像と字幕のリズミカルな構成に、伊藤大輔の映画話術の一端をうかがうことができる。「血煙高田馬場」「新版大岡政談」「素浪人忠也」「興亡新撰組」といった傑作のほとんどが失われたいま、伊藤=大河内=唐沢トリオの仕事を知る上で貴重な作品。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎今年の米アカデミ−賞で話題をさらった白黒無声のフランス映画「ア−ティスト」の監督、ミシェル・アザナヴィシウスは“無声映画は自由さが魅力”と語っている。
この昭和6年に製作された正真正銘の「無声映画」を観てみると、その映像の斬新さに驚かされる。
これは、1925年(昭和元年)に製作された「戦艦ポチョムキン」(セルゲイ・エイゼンシュテイン)の独創的な映像モンタ−ジュの手法を、見事に自家薬籠中の物とした伊藤大輔と唐沢弘光カメラマンのコンビが、上記のアザナヴィシウスの言葉ではないが“自由自在”な映画文法を駆使して思うさま遊んで見せた実験的な一編であります。呑気呆亭