5月9日(水)「河内山宗俊」

河内山宗俊」(’36日活京都=太秦発声)監督・脚本:山中貞雄 脚本:三村伸太郎 出演:河原崎長十郎/山岸しづ江/中村翫右衛門/原節子
★情婦の居酒屋でむだ飯を喰って暮らすヒモ河内山宗俊(河原崎)。守銭奴の顔役森田屋の用心棒の金子市之丞(中村)。ふたりは日々をのんびりと気ままに過ごしていた。ふたりのマドンナは、若いながらけなげに駄菓子や甘酒を売って弟を養っているお浪(原)という娘。
そのお浪が、弟の不始末の三百両の金のために森田屋や女衒の毒牙にかかり、女郎に売られようとする。宗俊と市之丞はお浪を救うために命を賭けて戦うのだった…。(ぴあ・CINEMA CLUB)

*文政6年、恐喝容疑で捕えられた河内山宗春(歌舞伎では宗俊)に取材して、講釈師二代松林伯圓が「天保六花撰」を作り、これが歌舞伎に脚色された。河竹黙阿弥作の「天衣紛上野初花(くもいにまごううえののはつはな)」。三千歳・直次郎入谷の寮の場の清元節「忍逢春雪解」が有名。(広辞苑)

◎上記の「天保六花撰」から時代設定と宗俊と市之丞の名を借りて山中と三村が創作した脚本の映画化。天才と謳われた山中貞雄の現在残されているたった3本の作品の内の1本。マドンナ役お浪を演ずる若き日の原節子(当時16歳)の初々しさには、宗俊・市之丞ならずとも肩入れしようという気になるだろう。

筋立ては粗っぽくて納得出来かねる部分が多々あるが、宗俊と市之丞の風変わりな友情には、この映画制作当時の若きカツドウ屋たちの交流の闊達さと志操の高さが覗われて、この一篇の映画そのものが昭和10年代という時代の生きた資料のようにも思われる。

河内山宗俊モノの映画としては、子母澤寛原作・伊藤大輔脚本を大河内伝次郎主演でマキノ雅弘が監督した「すっ飛び駕」('52大映京都)がある。「天保六花撰」ものの映画としてはこれがもっとも真っ当で分りやすく、また痛快で面白い。嬉しいことに、今はDVDで観ることが出来る。呑気呆亭