5月6日(日)バスタ−・キ−トン/桜町弘子

◎先週はバスタ−・キ−トンを特集して観てきたのだが、一つ気がついたというより、気にかかることがある。どうしてこの人はこんなにもずぶ濡れになるのが好きなのだろうか、ということだった。

「荒武者」では急流を流されて実際溺れかかったというし、「大学生」では母親と二人で傘もささずに雨の中を高校の卒業式に向かうシ−ンがプロロ−グだし、「カメラマン」ではプ−ルでとんでもない目に遭うし、「大列車」でも恋人と土砂降りの雨の中で抱き合って夜を過ごすし、「船長」では言うまでもなく暴風雨のシ−ンがクライマックスに設定されているのだ。

ここには何か出生にまつわるトラウマのようなものが有るのではないかと想像してしまうほどに、キ−トンはずぶ濡れになることにこだわるのである。これは興味ある研究課題になりそうだ。ちなみにチャップリンがずぶ濡れになったのを見た記憶がない。この違いは何か?

さて、昨日(6日)は「ラピュタ阿佐ヶ谷」のモ−ニング・ショ−で、桜町弘子さんの特集第一弾の「骨までしゃぶる」(‘66・東映京都 加藤泰監督)を観た。初見でこの題名なのでどんなもんじゃ、という気持ちだったが、加藤泰の作品であるから間違いはなかろうと片道450円なりの電車賃をはたいて出掛けたのだった。

★明治三十年代の洲崎遊郭−。新入り女郎(桜町)が自由廃業決行へと至る過程を中心に、様々な過去や夢を抱えた娼婦たちの群像が描かれる。桜町弘子渾身の主演作。ニュ−プリントで久々の劇場上映。(チラシ)

◎洲崎遊郭のセットが素晴らしい。そのセットを存分に映像にしたキャメラ(わし尾元也)、物置部屋に押し込められた仲間の女郎に握り飯を届ける桜町弘子を前景に置いて、様子を見に現れた遊郭のお歯黒で額を剃り上げた女将(三原葉子)の鬼の形相にフォ−カスするキャメラの素晴らしさ。脚本:佐治乾/美術:鈴木孝俊/音楽:斎藤一郎

出演:夏八木勲/久保菜穂子/宮園純子/桑原幸子/沢叔子/遠藤達雄、そして三原葉子の女将と共に女たちを「骨までしゃぶる」遊郭楼主の三島雅夫(こうした役をやらせたらこの人の右に出る者はいないのだが、これほどの憎々しさは、もう怪演というしかない)。

「骨までしゃぶる」、まさにこの題名のとおりの映画なのだが、もう少し気の利いた題名にしたらよかったのではなかろうか。これは加藤泰監督の大傑作である。

*開演ギリギリに息を切らせて品のよい年配のご婦人が入ってこられたのだが、これがナント桜町弘子さんその人!お友だちに囲まれて左奥の席でご覧になっておられたが、終映後に期せずして湧き上った拍手をどんな思いで受け取られたろうか…。呑気呆亭