11月12日(木)「午後の遺言状」

午後の遺言状」('95・日本ヘラルド)監督・原作・脚本:新藤兼人 撮影:三宅義行 美術:重田重盛 音楽:林光 出演:杉村春子/乙羽信子/朝霧鏡子/観世栄夫/瀬尾智美/松重豊
★老女優が避暑に訪れた先で過ごすひと夏を描いて、生きることの意味を問う人間ドラマ。監督は名匠・新藤兼人杉村春子と共演した夫人の乙羽信子は本作が遺作となった。夏、蓼科の別荘に避暑にやってきた老女優、蓉子。彼女をその別荘で迎えるのは農婦の豊子。もう30年もの間続いてきた光景だ。言葉は乱暴だが、仕事はきっちりこなす豊子に蓉子は信頼を寄せている。そして、今年の夏もいつも以上にいろいろなことが彼女たちを待っていた。<allcinema>

◎題名と新藤兼人作品ということで録画しておきながら長いこと敬遠していたのだが、いやあ、面白い!面白かった。新藤さんの映画では一番面白い作品ではないだろうか。静かな蓼科の別荘に次々に起こる事件が戯画的に描かれて笑わせてくれるし、民俗学的な足入れ婚やら海から黒子に担がれて上がってくる心中した夫婦を納めたダブルサイズの棺桶やらの描写が大駱駝館の参加で前衛的な面白さがあったりして、監督のサ−ビス精神が感じられて好ましかった。しかしこの映画の何よりもの面白さは、杉村・乙羽・朝霧というベテラン女優たちの激しくはないが互いに時空を自在に巡るサスペンスを秘めた丁々発止の演技合戦であった。流石!と言わざるを得ない。呑気呆亭