9月3日(木)「エル・ス−ル ―南―」

「エル・ス−ル ―南―」('83・スペイン)監督・音楽:ヴィクトル・エリセ 原作:アデライダ・ガルシア・モラレス 撮影:ホセ・ルイス・アルカイネ
出演:オメロ・アントヌッティ/ソンソレス・アラング−レン/イシアル・ボリャン/オ−ロ−ル・クレマン
★闇の中で時計の音がする。夜明けに少女エストレリャ(ボリャン、幼児アラングレ−ン)は父(アントヌッティ)の思い出をたどり始める。家の風見のカモメはいつも南(エル・ス−ル)をさして動かなかった。父は霊力のある振り子を使って水脈を見つけることができた。整体拝受式の時に一緒に踊った父。父を思うとき、その横顔には謎めいた深い悲しみが陰をおとしていた・・・。エル・ス−ル、若い日を過ごし、そしてそこを捨てた父の故郷。娘をとおして見た父親の肖像にスペイン内戦の陰が浮かび上がる。回想を間にはさみながら、ヒロインの成長と父親の苦悩を、深味のある美しい映像で綴った、静かな感動を誘う作品だ。名作「ミツバチのささやき」のエリセが10年ぶりに取り組んだ第2作。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎初整体拝受式の時のエストレリャの初々しさと、この荘重な儀式がカトリックの人々にとって意味するモノの重要さが綯い交ぜになって、このシ−ンの映像の美しさは例えようのないものがある。そしてもう一つ、整体拝受式を済ませた少女エストレリャが南から来た父親の秘密を知って悩みながら成長して行き思春期を迎え、白く塗った自転車に乗って自宅前の並木道を黒い子犬に送られながら真っ直ぐ走り去って行き、継いで、固定されたキャメラの画面に彼方からすっかり成長したエストレリャが赤く塗った自転車に乗って迫ってくる一連のシ−クエンスの見事さといったらない。黒い子犬もまた成犬となってエストレリャを迎えるのだった。語ればきりのない映像の意味深さを味あわせてくれる作品である。呑気呆亭