4月8日(水)「火宅の人」

「火宅の人」('86・東映京都)監督・脚本:深作欣二 原作:檀一雄 脚本:神波史男 撮影:木村大作 編集:市田勇 音楽:井上尭之 出演:緒形拳/いしだあゆみ/原田美枝子/松坂慶子/檀ふみ/山谷初男
★長年の間あたためていた企画を、深作欣二が思いのたけをぶつけて映画化。自らがファミリ−・アクション映画というように、文芸作とは思えないほどのテンポとスピ−ド感あふれる上質の人間ドラマとなり、興行的にも好成績を残した。先妻に先立たれた桂一雄(緒形)は、ヨリ子(いしだ)を後妻に。けれども、子供が障害児になってからヨリ子は怪しげな宗教に凝りだす。一雄は新劇女優の恵子(原田)のとりことなりアパ−トに同棲するが、恵子の浮気のため喧嘩がたえない。東京を逃げ出した一雄は旅先で薄幸の女(松坂)と知り合う・・・。放浪の作家檀一雄の名作を雄大な風景をバックに撮影。緒形拳のひと皮むけた演技が素晴らしく、各主演賞を独占した。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎桂一雄(緒形)をめぐる女たち、恵子(原田)、葉子(松坂)、ヨリ子(いしだ)のそれぞれが素晴らしいのだが、ヨリ子を演じた、いしだあゆみという女優さんの凄さは、原田にしても松坂にしても二面的演技に終始しているのに対して、役柄から要求されたにしてもこれほどに多面的な演技をすることが出来る才能に驚嘆する。彼女の良さはなによりも時にゾットさせるその独特なエロキュ−ションにあるのだが、狂気と稚気と諧謔と胆知を万華鏡のように燦めかせながら緒形拳と斬り結ぶさまは見事というほかない。彼女はこの演技で第10回の日本アカデミー主演女優賞を獲得したとのことだが、深作欣二の他にはこの才能を使いこなす演出者がいないのか、その後あまり作品に恵まれていないように思われるのはどうしたことなのだろうか。急いで言っておかねばならぬのは、一雄の母親役を演じた檀ふみの美しさと木村大作の遠景に桂と葉子を捉えたキャメラの素晴らしさである。呑気呆亭