3月4日(水)「叫びとささやき」

「叫びとささやき」('72・スエ−デン)監督・脚本:イングマ−ル・ベルイマン 撮影:スベン・ニクビスト 出演:ハリエット・アンデルセン/イングリッド・チュ-リン/リブ・ウルマン/カリ・シルヴァン
★S・ニクヴィストのカメラが、北欧の森の緑を深く捉えて、夏でもさえざえとした彼の地の空気がそのまま伝わってくるかのような作品。ベルイマンの出自そのものである、19世紀末の知的上流階級に属する一家の、病床の娘を中心にした家族間の相克を描く作品だが、いつもながらよく研磨されたダイアローグで人間の聖と俗を鋭くえぐっている。とりわけ、ウルマンの、病に伏せながら性の懊悩に苦しむさまはそら恐ろしい。けれど、その叫びもささやきもあくまで北欧的静謐さの中にあるのだ。<allcinema>

◎まるでレンブラントの絵画のような深い色調の映像で不気味な物語が紡がれる。美しい妹たちに嫉妬する長女の胸にくすぶる悪意が、一家の集団的無意識となってその不気味な物語の根底に蠢くマグマとして働いているかのようだ。その長女の魔女めいた眼差しが次女を不治の病に陥れ、三女を淫らな欲望から逃れられない女にしているのだと思えてくる。絶命した次女のやせ衰えた手が三女の頬に伸びてくるラスト・カットには思わず絶句!“叫びもささやきも、かくして沈黙に帰した”のだった。呑気呆亭