1月14日(水)「泥の河」

「泥の河」('81・木村プロダクション)製作:木村元保 監督:小栗康平 原作:宮本輝 脚本:重森孝子 撮影:安藤庄平 出演:田村高廣/藤田弓子/加賀まりこ/朝原靖貴/桜井稔/柴田真生子/芦屋雁之助
宮本輝太宰治賞受賞小説を映画化した、小栗康平の監督デビュ−作。昭和31年、日本が戦争の傷跡から立ち直り、高度成長期に入りかけた頃。大坂・安治川の河口で食堂を営む夫婦とその息子・信雄、そして川の対岸に船を舫っている、売春婦の母をもつ喜一と姉の銀子。これら世間の流れから取り残されたような貧しい人々の生活を、きめ細かな演出で描いている。信雄が喜一と出会うことによって、少年としての悪さや、喜一の母が男に抱かれるところを見て、衝撃を覚えてゆくさまが、みずみずしいタッチで綴られる。安藤庄平の映像は、時代性を的確に映し出していて素晴らしい効果をあげている。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎同時代をやはり川のある街で生きたワタクシは川面をゆくダルマ船を知っている。そのダルマ船には川の民のような人々が暮らしていて、陸に暮らす我々とはほとんど没交渉であった。船で暮らす喜一と姉の銀子が信雄と知り合うのはいわばタブ−破りで、いつか彼らの友情が破局を迎えることは分かりきったことなのだが、多分法外の地である河辺で食堂を営む田村高廣藤田弓子の夫婦の性根の据わった眼差しに見守られて、信雄と喜一と銀子の束の間の交情が奇跡的に成立する。食堂で信雄の母の心尽しのご馳走を前にして下を向く喜一のうなじをワタクシは涙なしに見ることが出来なかった。呑気呆亭