10月1日(水)「ハムレット」

ハムレット」('64・露)監督・脚本:グレゴリ−・コ−ジンツエフ 原作:ウイリアムシェイクスピア 撮影:ヨナス・グリツィウス 音楽:ドミトリ・ショスタコビッチ 出演:インノケンティ・スモクトゥノフスキ−/アナスタシア・ベルチンスカヤ
ソ連シェイクスピア研究家として著名なコ−ジンツエフ監督が、原作をよりドラマチックに演出。本家である英国のオリビエ作品以上に評価を受けた。ロシア語によるセリフは、「ドクトル・ジバゴ」の原作者、ボリス・パステルナ−クによる。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎先王の死後一ヶ月も経たぬのにその弟のクロ−ディアスの愛を受け入れてしまう母への恨みがハムレットを苦悩させるのだが、恐らく先王との結婚以前の母ガ−トル−ドとクロ−ディアスは愛し合っていたのであり、それを横取りしたのが先王であったと考えれば、この服喪期間の異常な短さは納得出来る。ここまで辛抱して王位を窺い続けて来たクロ−ディアスのしたたかさに比べればハムレットの苦悩はいかにも甘ちゃんな王子のそれとしか見えず、劇中の母への罵りや恋人オフィ−リアへの雑言もうっぷん晴らしの言葉としか思えず、ラストのクロ−ディアスの仕掛けも賢明な彼にしては杜撰なもので、舞台でもオリビエの映画でも見てきたがどうしても好きになれない物語であった。しかし、今回このコ−ジンツエフの丁寧に演出された作品を見て、クロ−ディアスの描き方に不満はあるが、恐らく原作からと思われる台詞に出会ってシェイクスピアという劇作家の恐ろしさを再発見した思いがあった。それはこんな台詞だった。“死は眠りだ、死ぬことは心や肉体の数々の悩みに終止符を打つことだ。だが、それがおれの望みか。死ぬこと、眠ること、眠る・・・、夢は見るのか、分からん。永遠の眠りにつくとどんな夢を見るのだ。分からんから恐れる。恐れるから苦しい人生を長引かせる。でなければだれが忍ぶ、権力者の無法さ、傲慢な態度を・・・”
「永遠の眠りにつくとどんな夢を見るのだ。」なんと恐ろしい台詞ではないか。呑気呆亭