9月30日「奇跡の丘」

「奇跡の丘」('64・伊)監督・脚本:ピエロ・パオロ・バゾリ−ニ 撮影:トニ−ノ・デリ・コリ 音楽:ルイス・バカロフ 出演:エンリケ・イラソキ/マルゲリ−タ・カル−ソ/スザンナ・パゾリ−ニ/マルチェロ・モランテ/マリオ・ソクラテ
★“マタイによる福音書”をコミュニストとして知られるパゾリー二が映像化し、意外にも、どんなハリウッド製のキリスト伝より感動的な作品となっていることに、改めてイタリアの信仰心にふくよかな風土に思いを馳せずにはいられない。出演は全て素人。音楽に使われるのは黒人霊歌や革命歌。カメラはあくまで素朴に人間キリストを中心に捉え続けるが、こうした表現の自由さが、真理を獲得した信徒たちの生き生きとした喜びの表情を自然に導き出す。終幕の復活劇のごくあっけらかんとした反ロマン的表現も、むしろ神話的な力をより印象づける効果がある。<allcinema>

★マタイによる福音書から監督としては日本初登場のピエル・パオロ・パゾリーニが脚色・監督したキリスト伝。撮影は「乞食」「ママ・ローマ」(共に日本未公開)でパゾリーニと組んだトニーノ・デリ・コリ、音楽はルイス・エンリケス・バカロフで、バッハ、プロコフィエフ黒人霊歌などを駆使している。出演は、キリストにスペインの学生エンリケ・イラソキ、マリアに女学生マルゲリータ・カルーソ、年老いたマリアに監督の母親スザンナ・パゾリーニが、また使徒たちには監督の友人である詩人、評論家、作家それに農夫や体操選手など素人ばかり。(goo映画)

◎キリストを演ずるエンリケ・イラソキもその生母マリアを演ずるマルゲリ−タ・カル−ソも、実に古拙な風貌であるために、ほぼロケ−ション撮影であろうと思われる風景に溶け合っていて、まるでその時代のドキメンタリ−を見ているような気持ちになってくる。処女懐胎と受難と復活と、弟子ペテロの三度の否定とユダの裏切り、全て予言によりあらかじめ定められた道を歩まざるを得ない宿命を負わされた、イエスの戸惑いと苦悩と被虐的な歓びとが、惻々として伝わってきて宗教的ではない人間的な感動を呼ぶ。呑気呆亭