9月24日(水)「赤い沙漠」

「赤い沙漠」('64・伊)監督・脚本:ミケランジェロ・アントニオ−ニ 脚本:トニ−ノ・グエッラ 撮影:カルロ・ディ・パルマ 音楽:ジョバンニ・フスコ 出演:モニカ・ヴィッテイ/リチャ−ド・ハリス/カルロ・キオネッテイ/ゼニア・ヴァルデリ/リタ・ルノワ−ル
★高度成長時代のイタリアの殺伐とした工業都市。ジュリア−ナは工場技師の夫と息子の3人暮らし。自動車事故で入院して以来、夫との関係は疎遠になり、精神が不安定でノイロ−ゼ状態にある。彼女に同情する知人をまじえた海辺のコテ−ジでの乱痴気騒ぎも、結局は虚しさをつのらせるばかり。息子の存在も胸にわだかまる不安を和らげはしない。夫の出張に端を発して、彼女は不倫に走るのだが・・・。「情事」「太陽はひとりぼっち」など現代人の心の空洞とコミニケ−ションの不在を描き続けて“愛の不毛”の作家といわれるアントニオ−ニ監督、初のカラ−作品。無機的な工場地帯の灰色の空間を薄緑色のオ−バ−コ−トを着たヴィッテイがひとり歩く。工場の煙突からは黄味を帯びた煙がたなびいている。神経をさかなでするような木造の赤い室内。ここでは、色が主人公の不安感、疎外感、異常な緊張感を雄弁に語るのだ。フスコの音楽が高まるなか、海に取り残されたジュリア−ナが途方にくれて泳ぎ回る幻想シ−ンが印象的。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎心を病んだジュリア−ナが無機質の工場地帯をあてもなく歩き回る様々なショットの構図と色彩の取り合わせが、まるで優れた絵画のような趣があって、物語とは別に見る者にたっぷりとした映画的な充実感を味あわせて飽きさせない。アントニオ−ニの初めてのカラ−作品であるということだが、撮影のカルロ・ディ・パルマとの協同によってまさにイタリア芸術の伝統を引く映像を作りあげたように思う。モニカ・ヴィッテイという女優さんは「情事」「夜」「太陽はひとりぼっち」に続いて4作目のアントニオ−ニ作品への出演だが、この作を最後にアントニオ−ニとは仕事をしていないようだ。ジュリア−ナが夫の友人のリチャ−ド・ハリスと一度だけ寝るシ−ンでは、スカ−トからはみ出して悶えるまるで上半身の意志とは別物の生き物のような二本の脚の淫らさがたまらぬセクシュアリテイをかもしだす。裸が売り物のポルノ映画ではけっして味わうことの出来ぬリアルな淫らさであって、女優ヴィッテイと監督アントニオ−ニとの間にはカナラズ何ごとかあったに違いないとワタクシなどは想像を逞しくしたのであった。呑気呆亭