6月4日(水)「蜜の味」

「蜜の味」('61・英)製作・監督・脚本:トニ−・リチャ−ドソン 原作戯曲・脚本:シ−ラ・ディレイニ− 撮影:ウオルタ−・ラザリ− 音楽:ジョン・アディソン 出演:ド−ラ・ブライアン/リタ・トゥシンハム/ロバ−ト・スティ−ブンス/マ−レィ−・メルヴィン
★「怒りを込めて振り返れ」など、イギリスの“怒れる若者たち”の姿を描いて英映画界に新風をもたらしたT・リチャ−ドソン監督が、S・ディレイニ−の戯曲をもとに綴る苦い青春スト−リ−。奇妙な共同生活を続ける二人の女性、母親ヘレン(ブライアン)と娘のジョ−(トゥシンハム)。彼女たちはそれぞれに男を見つけ、別々の人生を歩み出そうとするが、再び奇妙な共同生活へと戻っていく・・・。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎自分は男に好かれるご面相じゃないと密かに自覚している女の子の内心に吹き荒れる忿懣は、男たちには想像の付かないものに違いない。この作品の主人公ジョ−(リタ・トゥシンハム)はまさにその忿懣を体現した強烈なキャラクタ−としていきなり我々の面前に登場する。その冒頭の場面、女学校の校庭でボ−ル・ゲ−ムに興ずる生徒たちの中に独り異質で不器用な女の子がいる。主人公のジョ−である。“オイオイ、なんだよこの子は”と無様な格好で転んだりするこの女の子を見ている内に、そのドングリ目の眼差しの何ものにも囚われず自惚れも自卑もなく全てをその有りの儘で見通そうとする意志を感得して、この女生徒を待ち受けるであろう物語に或る予感めいたモノを抱かされる。さすがにリチャ−ドソン、見事な導入部である。
この眼はすなわちこれ以降のドラマを見つめるカメラの眼であって、この目の元では自堕落な母親も、黒人の水夫も、ゲイの青年も、等し並みに偏見なく見通されることよって、映画は一見悲惨な生活と状況を映し出しながらも不思議に奇妙な味わいを見る者に残してくれる。この味わいを作者たちは「蜜の味」と名付けたのだろうか。自堕落淫乱な母親を演じて何処か可愛いド−ラ・ブライアンと、しなやかで知的で優しいゲイの青年ジェフリ−を演じたマ−レィ−・メルヴィンの哀しみを秘めた演技は胸にせまるモノがあった。呑気呆亭