4月12日(土)「なつかしい風来坊」

「なつかしい風来坊」('66・松竹)監督・脚本:山田洋次 脚本:森崎東 撮影:高羽哲夫 出演:ハナ肇/倍賞千恵子/有島一郎/中北千枝子/真山知子/山口崇/久里千春
★衛生局の防疫課長・早乙女(有島)は、家庭でも妻や娘に相手にされないサエない中年。ある日通勤電車で出会った土方の源さん(ハナ)の粗野なパワ−にひかれ、ふたりの間に友情が芽生える。山田喜劇の頂点のひとつ。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎源さんのハナ肇はモチロン良いのだが、痔を病むサエない役人早乙女を演ずる有島一郎が素晴らしい。役所の部下たちからは嫌われてはいないが軽んずられ、妻にはこれ以上出世の見込みなしと見切られ、娘にはモチロン相手にされないという、親父の悲哀を一身に背負ったかのようなキャラクタ−を見事に造形している。忘れられないシ−ンが有る。僻地への転勤を上司から命じられ、心のこもらぬ送迎会で送られて、帰宅すれば妻も娘もぬけぬけと単身赴任を既定の事実のように言う。唯一心を許していた源さんにも裏切られた思いを抱えて、その心の風景を映し出すかのように波のうねり立つ湘南の浜辺を歩くシ−ンである。山田洋次は早乙女(有島)の何処へも持って行きようのない心象風景を見事に映像化して見せてくれたのだった。このシ−ンがあったからこそ、ラストの恋を成就した源さんとの車中の邂逅の嬉しさが我々の胸にも迫るのである。呑気呆亭