4月5日(土)「スリ」

「スリ」('59・仏)監督・脚本:ロベ−ル・ブレッソン 撮影:レオンス・アンリ・ビュレル 音楽:ジャン・バディスト・リュリ 出演:マルタン・ラサ−ル/マリカ・グリ−ン/ピエ−ル・レマイリ−
★R・ブレッソンが「抵抗」に続いて発表した異色作。ソルボンヌの貧しい学生ミシェルは、手先が器用なことからスリをして生計をたてている。そうするうちにスリが病みつきになり、腕をみがいてプロのスリになった。そんなミシェルに思いをよせるのは、ジャンヌ。前作「抵抗」で脱獄の克明な描写に徹したブレッソンが、この作品ではスリの驚くべき手口の数々をドキメンタリ−・タッチで、じっと凝視する。競馬場でのスリ、アパ−トの一室で上着から財布を抜き取る練習、地下鉄の車内とプラットホ−ムでのスリなど、スリのテクニックの多彩さには驚かされる。出演者は、ほとんどのブレッソン作品がそうであるように全員が素人で、映画の中でスリの頭目を演じ、同時にスリの演技指導を行っているのは、有名な魔術師のカッサジである。撮影は、パリ市内と北駅などでロケされた。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎前作の「抵抗」には文句なしに感心させられたが、この作品には少なからず首を傾げざるを得ない。学生ミシェルが開陳する「悪の哲学」は、ドストエフスキ−を知る者には手垢のついたシロモノでしかないし、肝心のスリの技も我国の伝説的な名人芸を知る我々には粗雑なもので、確かに緊迫感はあるが、その緊迫感もこんな稚拙なやり方ではすぐに気付かれて捕まるのではないかとの危惧から生じるものである。唯一の救いはミシェルを愛するジャンヌの存在である。この神話的な存在感を持つ女性が素人であるとは驚くほかはない。呑気呆亭