2月20日(木)「死刑台のエレベ−タ−」

「死刑台のエレベ−タ−」('57・仏)監督・脚本:ルイ・マル 脚本:ロジェ・ニミエ 撮影:アンリ・ドカエ 音楽:マイルス・ディビス 出演:ジャンヌ・モロ−/モ−リス・ロネ/リノ・バンチェラ/ジョルジュ・ブ−ジュリイ/ヨリ・ベルタン/ジャン=クロ−ド・ブリアリ
★これ以前に海洋ドキュメンタリー「沈黙の世界」で、クストーと並んで監督にクレジットされていたとはいえ、これこそルイ・マルがその斬新な演出技法を駆使して初めて作り上げた劇映画。その時、わずか25歳であった。原作はノエル・カレフの犯罪小説。土地開発会社に勤める技師ジュリアン(ロネ)は社長夫人フロランス(モロー)と通じており、邪魔な社長を殺す完全犯罪を目論んでいた。だが社内で社長を殺した帰途、残してきた証拠に気づいたジュリアンは現場へ戻ろうとするが、週末で電源を落とされたエレベーター内に閉じ込められてしまう。しかも会社の前に置いてあった車は、若いカップルに無断で使われており、彼らは彼らで別の犯罪を引き起こしていた……。徹底したドライなタッチと、即興演奏で奏でられるマイルスのモダンジャズ、モノクロ映像に封じ込まれた都会の孤独感によって描かれる完全犯罪の綻び。“ヌーヴェル・ヴァーグ”の先駆けというフレーズには、あえて眼をつぶろう。この作品の魅力は、そんな時代の呪縛からは完全に解き放たれている。<allcinema>

◎雰囲気のある傑作だが、何度も見直すとアラが目立ってくる。そもそも不倫の果てに亭主を殺すという犯行の動機が頷けない。この新聞社の社長はかなりのやり手であって、これを殺しても兵隊上がりのジュリアンにこの新聞社を経営してゆく手腕があるとは思えない。犯行自体も粗忽で、そもそも真っ昼間に鉤縄を使ってビルの壁面を登って侵入するなどという荒っぽいやり方はいかにも兵隊上がりらしいのだが、その鉤縄を回収する手段を最初から講じていないことも甘いし、ビルを出てからその鉤縄を残してきたことに気づいて慌てて引き返し、エレベ−タ−に閉じ込められる間抜けさにいたっては噴飯物というしかない。ルイ・マルの演出にしても不可解なのは、その問題の鉤縄がビルから落ちてきて、その鉤縄を子供が拾ってゆくショットが挿入されているのだが、フックで手すりに引っかかっている鉤縄がどうしたら落ちてくるのか頷けない。二人の関係を露わにする写真が現像液を満たしたバットの表面に浮かび上がってくるラストシ−ンは秀逸だが、一体誰がこの写真を撮ったのかね?と、アラを書き連ねてみたが、夜の町をさまよい歩くジャンヌ・モロ−を見ているだけで何もかも許せるような気持ちになる傑作であることは確かである。呑気呆亭