12月26日(木)「太平洋ひとりぼっち」

太平洋ひとりぼっち」('63・石原プロ=日活)監督:市川崑 原作:堀江謙一 脚本:和田夏十 撮影:山崎善弘 美術:松山崇 出演:石原裕次郎/森雅之/田中絹代/浅丘ルリ子/大坂志郎/ハナ肇
★'62年の夏、弱冠22歳のひとりの青年が、小型ヨットを駆って94日間の太平洋横断を成功させた。その青年・堀江謙一の、日記風の同名の手記を原作にして、市川崑が演出した青春冒険映画。無風状態の大阪湾内を1日半も迷走した“マ−メイド号”は一転してシケで大荒れの海原で悪戦苦闘する。やっと太平洋に出たと思えば今度は台風。やがて水はくさり、食糧も不足気味になり、体力も消耗しつくす。しかし目指すサンフランシスコは目前に迫っていた。ひとりの青年が壮挙を成し遂げる様子を、スリルとユ−モアで描く感動的作品。遠くに金門橋を見つけた時の狂わんばかりの歓喜が、見る者に深い感動を呼び起こさずにはおかない。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎主な舞台が狭いヨットの船内ということで、原作を脚色して1時間37分の映画に構成した脚本の和田夏十の手柄をまず上げなければならないだろう。石原裕次郎も自分の独立プロの作品ということで、大阪弁も堂に入っていて違和感がない。それにしてもこの壮挙ではあるが単純な物語を飽きさせずに引っぱって楽しませてくれた演出とキャメラの仕事には敬意を表さなければなるまい。ただし、余りにも原作に忠実に作ったためなのか、太平洋ヨットでをひとりぼっちで渡ることの爽快感や大海原のダイナミズムなどをこの映画から受けることが出来なかったのが惜しまれる。この壮挙はもっと恐ろしくて淋しくて楽しくて痛快な浪花ッ児の物語であったに違いないのだから。呑気呆亭