12月18日(水)「フレンチ・カンカン」

フレンチ・カンカン」(55・仏)監督:ジャン・ルノワ−ル 撮影:クロ−ド・ルノワ−ル 音楽:ジョルジュ・バン・パリ 出演:ジャン・ギャバン/フランソワ−ズ・アルヌ−ル/マリア・フェリックス
★ハリウッド製ミュージカルのひたすら上向きな幸福感とはまた違った、酸いも甘いもかみわけた大人の音楽喜劇として、膨らみのある幸福感に浸らせてくれる、ルノワールの傑作オペレッタ。彼が15年ぶりに祖国フランスで撮影した作品で、「大いなる幻影」以来のギャバンとの仕事でもある。1888年のパリで上流向けのクラブを営んでいたダングラールは、下町のキャバレーで見初めた踊り子ニニ(アルヌール)に触発され、自分の店を処分し、その店“白い女王”を買い取り、カンカンの復活を軸とした新しいショウを見せる娯楽の殿堂にしようと画策。が、女性にもてる彼をめぐって、以前の店からのスター、ローラとニニが衝突を繰り返し、ローラに気のある出資者が援助を止めたりして、なかなか計画通りにいかない。ニニにはポウロというパン職人の恋人があったが、嫉妬深い彼よりダングラールの渋さに参ってしまった。そんな彼女に秘かに焦がれて自殺まで図ったアラブの王子は、彼女との一度の逢瀬に満足して、その支援で何とか店も開店に漕ぎつけた。が、ショウの本番の直前、他の歌手にちょっかいを出すダングラールに腹を立て、ニニは楽屋にこもってしまう。けれども、観客の彼女を呼ぶ声に押し出されるようにフロアに出て、仲間と共にフレンチ・カンカンを快活に歌い踊るのだった。パリの名物だったムーラン・ルージュの由来を描いており(創始者ジドレルの名は変えられている)、ピアフを始めとするシャンソン歌手たちのゲスト出演も楽しみ。ラストのカンカンの勢いに魂を奥底から鼓舞され、ヴォケールの歌う主題曲“モンマルトルの丘”の楽しく、どこか感傷的なメロディには幸せな涙を流す、そんな作品だ。<allcinema>

◎ダングラ−ル(ギャバン)とニニ(アルヌ−ル)とが出会う下町のキャバレ−でのダンス・シ−ンが素晴らしい。'61・米の「ウエストサイド物語」のそれを先取りするかのようなダイナミックなダンス・シ−ンは、かつての「天井桟敷の人々」を思い出させてくれるような素敵なモブ・シ−ンであった。こうした庶民のエネルギ−を横溢させる映画を近年のフランス映画は失ってしまったように思えるのは何故なのだろうか。思うに我が国には「松竹ヌ−ベルバ−グ」が一方にありながらも、その対極に「東映チャンバラ映画」が有ったのに比べて、フランスのヌ−ベルバ−グにはそれに対峙する雑駁な映画群がなかったからなのではないだろうか。というのは、フランス映画界の事情を知らぬ無知なワタクシの勝手な独断であります。呑気呆亭