10月17日(木)「秋刀魚の味」

秋刀魚の味」('62・松竹)監督・脚本:小津安二郎 脚本:野田高梧 撮影:厚田雄春 音楽:斎藤高順 出演:笠智衆/岩下志麻/佐田啓二/岡田茉利子/牧紀子/中村伸郎/三宅邦子/加藤大介/岸田今日子
★自己のスタイルをかたくなに守り、'49年の「晩春」以後は父と娘、あるいは母と娘を中心とした家族のドラマを撮りつづけ、年1本のペ−スで多くの名作を生み出してきた小津安二郎の遺作となった作品。小津自身は家庭を持たず、母とふたりきりの生活を送ってきたのだが、その母をこの「秋刀魚の味」の構想中に失った。娘を嫁に出した父、あるいは母の孤独というのは小津作品に繰り返しあらわれるシチュエ−ションだが、真の孤独を味わった小津によって描かれたこの作品での父親役・笠智衆の、淋しさにふるえる背中は今までにない凄味がある。娘と暮らす初老のサラリ−マンは、婚期の娘の結婚を心配する。娘には好きな相手がいるらしいが、はっきりしない。父は、同僚から娘の見合いをすすめられる。縁談はもたつきながらやがてまとまり、娘は嫁いでゆく・・・。どちらかといえば、軽いコメディ・タッチで作られているところが、逆に父親の孤独感を浮き彫りにして秀逸である。娘を演じた岩下志麻の快活さも新鮮で、原節子が演じてきたしっとりとした感じとは違った味わいがある。この作品を最後に翌年、小津は60歳の誕生日にその生涯を閉じた。(ぴあ・CINEMA CLUB)

小津安二郎にとっては遺作となってしまった作品だが、なにやら苦い味(それが題名の意図か?)の残る映画である。例によって同級生が出てきて友人の娘の縁談を心配するという、毒にも薬にもならぬスト−リ−なのだが、その間に挟まれる挿話、軍隊の部下である加藤大介との出会いとバ−のマダムの岸田今日子とのやりとりに、どことなく小津安二郎のペシミズムが感じられる。呑気呆亭