9月28日(土)「静かなる男」

「静かなる男」('52・米)監督:ジョン・フォ−ド 脚本:フランク・S・ニュ−ジェント 撮影:ウイントン・C・ホック/ア−チ−・スタウト 音楽:ヴィクタ−・ヤング 出演:ジョン・ウエイン/モ−リン・オハラ/ヴィクタ−・マクラグレン/ウオ−ド・ボンド/フランシス・フォ−ド
アイルランド・カ−スルタウンの駅にショ−ン・ソ−ントン(ウエイン)が降り立つ。ソ−ントンはアメリカでボクサ−だったが試合で相手を死亡させ引退を決意、父の故郷の村に戻ったのだ。その故郷は想像以上に美しく牧歌的だった。そして山野に羊を追う村の娘メアリ−・ケイト・ダナハ−(オハラ)にひと目惚れし、ラヴ・スト−リ−が展開する。だがメアリ−の兄で家長のウイル(マクラグレン)が結婚に反対、それでもなんとか式にこぎつけるが持参金を渡さない。メアリ−の名誉のため決闘覚悟で談判に臨むソ−ントン。そしてこの静かな男とウイルが延々と野を越え川越えて繰り広げるラストの殴り合い・・・。美しく魅力的なフォ−ド映画の傑作。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎カ−ルスタウンの駅に降り立ったショ−ンを囲んで、村人と機関手たちが列車の運行をそっちのけにして喧々囂々と魚釣りについて論議するプロロ−グからして、いかにもフォ−ドの映画だと嬉しくなってしまう。迎えの馬車に乗ったショ−ンの目に羊を追う村の娘のまるで妖精のような姿が飛び込んでくる。振り向いた娘の目とショ−ンの目が合って、瞬間二人は運命的な恋を雷に打たれたかのように自覚するのだった。この場面の色彩(娘メアリ−の前掛けから覗くスカト−の真紅の裾)の美しさが観る者にこの映画が幸福なファンタジ−であることを告げ知らせる。まだ電気に象徴される文明に汚されていない村の人々は、薄暗いパブで黒ビ−ルに酔い、ショ−ンとメアリ−の恋の成り行きの噂話に興じ、兄貴のウイルとショ−ンの対決への期待に酔う。村を二分する宗教とIRAの組織の存在もさりげなく描写されてはいるが、観客も又村人と一緒にそうした対立は黒ビ−ルの酔いと共に忘れて、ウエインとマクラグレンの豪快なヘビ−級の殴り合いを、浮き世離れした英雄譚として素直にワクワクしながら期待させられるのであった。呑気呆亭