7月20日(土)「小早川家の秋」

小早川家の秋」('61・宝塚映画)監督・脚本:小津安二郎 脚本:野田高梧 撮影:中井朝一 音楽:黛敏郎 出演:中村鴈治郎/原節子/司葉子/新珠三千代/小林桂樹/森繁久彌/浪花千栄子/杉村春子/笠智衆
小津安二郎野田高梧とともに書き下ろしたオリジナル脚本を自ら監督した。小津が松竹ではなく東宝で監督した唯一の作品。
京都の伏見にある造り酒屋「小早川」は、当主である小早川万兵衛が年老いたこともあり、娘婿の久夫に引き継がれていた。長男は亡くなっており、嫁の秋子は画廊に勤めに出ている。万兵衛の様子がおかしいことに気づいた娘夫婦は、番頭の六太郎に後をつけさせるがあえなく失敗。娘夫婦が調べると、万兵衛はかつて愛人だった佐々木つねとその娘の百合のところへ通っていたことがわかる。秋子には再婚話が持ち上がるが、ふんぎりがつかない。次女の紀子もお見合いをしたのだが、大学時代の友人に想いを寄せているため決められない。
<allcinema>

◎小津監督のカラ−映画には松竹で撮ったものと他社で撮ったものとが有り、松竹のそれはいわゆる小津調で撮られているのに、他社でのそれには小津調は影を薄めている。他社でのそれとは大映で撮った「浮草」とこの東宝・宝塚で撮った「小早川家の秋」である。「浮草」のキャメラ宮川一夫、この映画のキャメラ中井朝一、そして面白いことに両作品に中村鴈治郎が主演している。中村鴈治郎の昔の愛人の元に通う浮気性の男というキャラクタ−は両作品に共通していて、鴈治郎はその剽軽さとねちっこさを併せ持つ男をまさに地のままのように演じている。この鴈治郎の存在と他社のキャメラマンとの仕事であるということが、小津調を薄めさせた要因であったのか?ガチガチの額縁にはめ込んだような不自然な映像のストレスもなく、繰り返しを多用する小津・野田の台詞回しに辟易することもなく、流麗な映像の中をひょこひょこと動き回る鴈治郎が演ずる万兵衛という、男なら誰でもこんな風に奔放に生きて、こんな風に昔の愛人の家で亡くなってみたいと思わせる風流人の生き方を、時に苦笑し時に吹き出しながら楽しんで観ることができた。小津さんはこのいわゆる小津調からはみ出した両作品について、どんな感想を持っていたのだろうか?呑気呆亭