7月4日(木)「赤坂の姉妹より・夜の肌」

「赤坂の姉妹より・夜の肌」('60・東宝)監督・脚本:川島雄三 原作:由紀しげ子 脚本:八住利雄/柳沢類寿 撮影:安本淳 照明:伊藤盛四郎/榊原庸介 美術:小島基司 音楽:真鍋理一郎 出演:淡島千景/新珠三千代/川口和子/伊藤雄之助/田崎潤/フランキー堺/松村達雄/三橋逹也/山岡久乃/菅井きん
★赤坂のバ−“しいの実”を舞台に、店のマダム夏生、その妹の秋江、冬子という3姉妹のそれぞれ対照的な生き方を情感豊かに描いた作品。撮影は、「丹下左膳餘話・百万両の壺」(監督:山中貞雄)、「乱れる」(監督:成瀬巳喜男)などの名カメラマン・安本淳。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎原作を読んでいる訳ではないので正確ではないが、チェ−ホフ作の「三姉妹」の劇と現実の三姉妹の物語を巧みに組み合わせている脚本に感心する。その三姉妹の末の妹の冬子が国会議事堂の門に花束とリンゴを捧げに来るシ−ンから物語が始まる。これは60年安保闘争の最中に亡くなった樺美智子さんへの追悼の意味であろうから、このシ−ンは製作の過程で付け加えられたものか。そのシ−ンからいきなり法規を無視して暴走する黒塗りの高級車に乗った政治家が赤坂の料亭に乗り付けるシ−ンが続く。その車から降り立ったのが伊藤雄之助演ずる与党の実力者、料亭を籠脱けに利用して雄之助は愛人の元に通うのである。カリカチュアライズされた政治家連中と実業家連中を巧みに配して、その連中の間を泳ぎ回って浮かび上がろうとする女たち。その一人が冬子の姉の夏生(淡島)で、彼女のバ−を手伝いながら真っ当な生き方を模索する次姉の秋江(新珠)。名手安本淳のカメラが素晴らしく、天然色にもかかわらず色調・構図ともに観るものに心地よさを味あわさせてくれる。小さなバ−“しいの実”を「まごころ」と女の生身を武器としてステップアップさせ、最終的には総理首相を迎える料亭の女将に納る夏生、その生き方に反発して家を去る秋江。それを見送って夏生は冬子に、演劇女優の卵の頃に覚えた「三姉妹」の台詞を語る。“何のためにあたしたちが生きているのか、何のためにあたしたちが苦しんでいるのか・・・その内あたしたちが何のために苦しんでいるのか、それが分かる時がくるわ、あんたが言ってたラテン語の台詞、そう、あたしは全力を尽くした、出来るものならもっと上手にやってみるがいい”と言い放って、三面鏡を開き襟元を正し帯を確かめて毅然と姿勢を正した夏生は、男どもの待ち構える「戦場」に向かうのだった。夏生を演じた淡島千景の勁く美しい存在感に圧倒された。傑作である。呑気呆亭