4月24日(水)「どん底」

どん底」('57・東宝)製作・脚本・監督:黒澤明 原作:マキシム・ゴ−リキ− 脚本:小国英雄 撮影:山崎市雄 美術:村木与四郎 音楽:佐藤勝 出演:三船敏郎/山田五十鈴/香川京子/中村鴈治郎/千秋実/渡辺篤/三井弘次/藤原釜足/上田吉二郎/清川虹子/左卜全/根岸明美
★ゴ−リキ−の同名の戯曲を、監督の黒澤明小国英雄が翻案した。陽の当たらない、江戸の場末の棟割長屋に暮らす鋳掛屋、夜鷹、飴売り、遊び人、役者くずれ、泥棒、お遍路など、さまざまな人々と嫌われ者の大家夫婦が織りなす辛口の人生模様。黒澤としては珍しく短期間・低予算で仕上げた作品である。それまでの長い製作期間とぼう大な製作費に業を煮やした東宝は、この作品を黒澤自身に製作させた。黒澤はオ−プン・セット一杯室内セット一杯だけを作り、入念なリハ−サルをして複数のカメラで一気に撮り上げたといわれている。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎ドラマとしては三船と山田と香川の三角関係の葛藤と破綻が芯になるのだが、この映画の真の主役はこのボロボロの棟割長屋であろう。その棟割長屋に巣くう連中一人一人の人間模様が、これでもかというほどにリアルな背景をバックに描かれる。以前、川島雄三の「わが町」を観た時に登場人物たちの一人一人が老け比べをしているように感じたことがあったが、この映画の連中は凝ったメ−キャップと衣装で嬉々として汚れ比べをしているようであった。主要な役は鋳掛屋の女房をあの世から迎えに来たかのようなお遍路(左)が前半の、お遍路が姿を消した後半俄然精彩を放つ遊び人(三井)の二人であろう。黒澤はお遍路にあの世への誘い(厭離穢土)を説かせ、遊び人にどん底の住人のしたたかな現実肯定の歌を唄わせて、映像による「リアル」という思想をボクラの前に呈示したのだった。呑気呆亭