3月16日(土)「早春」

「早春」('56・松竹大船)監督・脚本:小津安二郎 脚本:野田野田高梧
撮影:厚田雄春 編集:浜村義康 美術:浜田辰雄 音楽:斎藤高順 出演:淡島千景/池部良/岸惠子/高橋貞二/笠智衆/山村聡/杉村春子/浦辺粂子/三井弘次/加藤大
小津安二郎野田高梧とともに書いたシナリオを監督し映画化。不倫に揺れる昭和30年代のサラリーマン夫婦を描く。蒲田に妻と住む杉山正二は、丸ノ内への通勤途中で知り合ったサラリーマンたちと仲良くなり、退社後に遊びに行くのが日課となっていた。妻は退屈な毎日から逃れるように、おでん屋を営む母の実家へ帰ったりしている。通勤仲間と出かけた江ノ島で、杉山は金子千代と接近。千代の誘惑に耐えきれず、関係を持ってしまう。二人の関係に気づいた杉山の妻は家出して、旧友のアパートに転がり込んだ。同僚の死をきっかけに、杉山は自分の生き方を振り返り、千代と別れようと考え始める。ちょうどその頃、会社で地方工場への転勤話が持ち上がった。<allcinema>

◎全ての登場人物(特に会社を辞めて喫茶店などを営んでいる山村聡)たちの愚痴っぽさに閉口した。志に反してサラリ−マンになったと言わんばかりの連中(中には会社に忠誠を捧げて結核で死んだりするヤツもいたりして)ばかりで、度々映される丸の内の“格子なき牢獄”を暗示するかのような無機的なビルのショットの多用は、この時期の小津安二郎厭世観を現わしているかのようだ。こんな作品に「早春」と題名を付けた小津と野田高梧の意図が計りかねた。漸くラストまで辛抱して、杉山と妻千代の和解の場面を見て、ああ、これは小津の「暗夜行路」なのだったなと思ったことだった。呑気呆亭