3月14日「神阪四郎の犯罪」

「神阪四郎の犯罪」('56・日活)監督:久松精児 原作:石川達三 脚本:高岩肇 撮影:姫田真佐久 出演:森繁久彌/新珠三千代/左幸子/金子信雄/高田敏江/宍戸錠/轟夕起子/滝沢修
石川達三のベストセラ−小説を映画化。女のもつダイヤ目当てに偽装心中したという疑いをかけられた男・神阪四郎。犯行について4人の証人が現れるが真実はヤブの中で終る。不敵な男・神阪四郎に森繁が扮して、新境地をみせた、異色の推理サスペンス。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎女と偽装心中をして女の持つダイヤを詐取しようとしたとして裁かれる神坂四郎。彼の勤める雑誌社社長、部下の女、彼の後ろ盾である文芸評論家、そして神坂の妻。四人の証言の中で明らかにされる神坂という男は、まるでカメレオンのように色彩を変えて我々観客の前に姿を現す。森繁久彌という役者の異能をこれほどまでに引き出し生かした作品は、これ以前にも以後にもなかったのではあるまいか。最終弁論で陳述する神坂を演じている森繁本人さえも、果たして自分の演じている神坂四郎が何をしたのか、何をしようとしたのか実は分かってはいなかったのではないだろうか?そんなことさえ考えさせるほどの、日本映画にしては珍しく乾いたタッチの異様な作品である。呑気呆亭