2月6日(水)「失われた週末」

「失われた週末」('45・米)監督・脚本:ビリ−・ワイルダ− 脚本:チャ−ルズ・ブラケット 原作:チャ−ルズ・R・ジャクソン 撮影:ジョン・サイツ 音楽:ミクロス・ロ−ザ
★ ひとりのアル中の苦悩を真っ向から描き、アカデミー作品・監督・脚色・主演男優賞に輝いた力作。売れない作家ドン・バーナムは重度のアルコール依存症。兄や恋人の懸命な努力も効を奏せず、目を離した隙に一杯あおる始末だった。馴染みの酒場でも彼の病気は知られていたが、いよいよ酒代がなくなったドンは、街をさすらう内に気を失ってしまう……。開巻、隠すために窓の外に吊り下げられた酒瓶を捉えたショットから、ワイルダー&ブラケットの巧みな構成が光る。作家にとって命の次に大切なタイプライターを売ろうと決意する辺りも鬼気迫るものがあるが、ようやく思い立ったものの祭日のためにそれがかなわないと知った主人公の落胆ぶりなども上手い。深刻な題材がゆえに娯楽性など感じさせないが、それでも見せてしまうというのは、一にも二にもその達者な造りに依るところだろう。それまで大根で通っていたR・ミランドがオスカーに輝いたのは、ハンディキャップを背負ったキャラクターを演じたからというだけでなく、その熱演ぶりが観客に、アル中患者の充分リアルな恐怖感を与えたからだ。
<allcinema>

ワイルダーとブラケットの脚本はアル中のみならず何かに憑かれた人間の心理と行動を、まるで自身がその経験を経て来たように偏執的なほどの細やかさで描写する。酒瓶をあそこにも此処にも、煙草をあそこにも此処にも…、麻薬をあそこにも此処にも…、チョコレ−トをあそこにも此処にも…、誰しもが知っている心中の悪魔の囁きに負けることの快楽を、奈落に落ちる快感を、これでもか、これでもかと叩きつけてくる映像、バ−・カウンタ−に印される淪落の輪、後年のワイルダ−作品の「アパ−トの鍵貸します」で、ジャック・レモンが同じバ−・カウンタ−に描いた孤独なマティ−ニのオリ−ブ・ステックのまだそれなりに整然とした輪に比べての、錯乱の輪の跡が総てを物語る。呑気呆亭