2月2日(土)「あにいもうと」

あにいもうと」('53・大映東京)監督:成瀬巳喜男 原作:室生犀星 脚本:水木洋子 撮影:峰重義 美術:仲美喜雄 音楽:斎藤一郎 出演:京マチ子/森雅之/久我美子/堀雄二/船越英二/山本礼三郎/浦辺粂子
★東京近郊、多摩川べりの田舎町。荒っぽい性格だが妹への愛は人一倍の兄と、いったん東京へ出たものの、年下の学生の子を孕んで再び兄のもとへ帰ってきた妹との、深い兄妹愛の世界を描いた作品。'36年、江口又吉脚本、木村荘十二監督のコンビで映画化された室生犀星の同名小説、二度目の映画化。今回の脚本は成瀬とのコンビには定評のある水木洋子成瀬巳喜男の全盛期に撮られた傑作で、彼にとっては最後の大映映画でもある。登場人物の小さなしぐさや軽い目配せを緻密に組み立てて、ドラマの情緒をつかんでいく演出は名人芸の域。成瀬の'53年作品に見られる「夫婦」「妻」「あにいもうと」といったタイトルは、彼の作品世界の拠って立つ場所を、これ以上ないほど明確に教えてくれる。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎いかにも田舎町然とした多摩川沿線の町、兄の仕事は恐らく家の稼業であったのだろう川砂利の採掘人足、母親は家計の足しというより不安定な男たちの稼ぎを補完する日銭稼ぎの茶店をやっている。そのあたりの描写はさすがに成瀬である。しかし、山本礼三郎のヤクザっぽい父親といつもながらの浦辺粂子の母親との間に、これだけ個性的な三兄妹、森、京、久我が生れるだろうかと、つい下世話なつっこみを入れたくなってしまう。挿話としては末の妹(久我)の兄と姉を見て来た故の安易な駆け落ちを回避する強さが新鮮であった。その久我が優柔不断な彼氏を振り切って乗る電車には「新宿」と行き先が記してあるところを見ると、この町は小田急多摩川縁の登戸か、そんな興味を起こさせる映画であった。呑気呆亭