2月1日(金)「魔剣」

「魔剣」('53・日活)監督・脚本:安達伸生 原作:五味康祐 撮影:竹村康和 音楽:山田栄一 出演:大河内伝次郎/山根寿子/中村扇雀/長谷川裕見子/坂東好太郎
五味康祐の原作「喪神」を安達伸生が脚色・演出した作品。夢想剣の創始者瀬波幻雲斎(大河内)に親を殺された稲葉哲郎太(中村)が仇を討つべく何度も立ち向かうのだが、その都度幻雲斎の夢想剣に撃退され、遂に幻雲斎に勝つには夢想剣を学ぶしかないと決意して、母親と許婚の反対を押し切って幻雲斎の懐に飛び込むことを決意する。その幻雲斎の山小屋には幼き日に幻雲斎に父親を殺された娘・ゆき(長谷川)が一緒に住んでいた。“いつでも打込んでこい”という幻雲斎に打込んでいっては跳ね返される修行の日々が始まる。幻雲斎は夢想剣の極意を“臆病であること”と哲郎太に教える。ゆきはその哲郎太に自分の思いを打ち明けて辛い修行の日々を励ますのだった。そうしているうちに外の世界での情勢は豊臣から徳川の世に変って行こうとしていた。豊臣の兵に追われた伊勢(山根)が幻雲斎の助けを求めて山小屋に上って来て…。

◎夢想剣とは打ち掛かって来た者を斬り捨てたことさえ自覚しない、まさに「魔剣」であって、間抜けなことに夢想から覚めて後戻って自分が斬ったことを確認しなけらばならない厄介な剣なのだが、この剣に挑む中村扇雀が例によって育ちの良いお坊ちゃま然としていて、これでは到底ムリだよと思わせるところが面白い。そのお坊ちゃまが徐々に鍛えられ変身していって、見せ場の薪割りのシ−ンとなる。このシ−ンには正直驚いた。左手で薪を立て右手に振りかざした斧で、スパリ、スパリと次々に切って行き、背後から打ち掛かる兵をその同じ斧で無意識に切り捨てて行く哲郎太は、とてもお坊ちゃまなどと呼ぶことの出来ぬ風格さえ漂わしていたのである。ゆきも幻雲斎も木陰からその有様を見ていたのだった。呑気呆亭