12月15日(土)「もぐら横丁」

「もぐら横丁」('53・東宝)監督・脚本:清水宏 原作:尾崎一雄 脚本:吉村公三郎 撮影:鈴木博 音楽:大森盛太郎 出演:佐野周二/島崎雪子/森繁久彌/千秋実/若山セツ子/笠智衆
★33歳の貧乏作家緒方がその不遇の生活にも明るくたえてゆけるのは、19歳になる底抜けに無邪気な若妻−芳枝のおかげといえる。北陸の女学校を卒業、すぐ上京して緒方と知りあい結婚した彼女はひどい貧乏にめげるどころか、飢に迫られての質屋通いまでたのしがろうという楽天さ。緒方の原稿をきれいに清書しては、駄賃と称してドラ焼きを買い、さもおいしげに頬ばるのである。突然訪ねてきた幼友達野々宮と映画見物に外出、そのかえりのおそいのに緒方を心配させたものの、実は閉館後ラーメン、シューマイのたぐいをお腹一杯ご馳走になったということでしかなかった。<goo映画>

佐野周二島崎雪子が素晴らしい。他の出演者もそれぞれに持ち味を発揮して、貧乏作家夫婦を囲んで、新自由主義とやらいうギスギスした思想が蔓延する今日から見ればまことにおとぎ話のような人間模様が繰り広げられる。この気持ちの良さはやはり清水宏という人の類まれな魂が全編に滲み出ているからなのであろう。我々は安心してこの映画の中に浸っていられるのだが、清水はラストに我々をハラハラさせる仕掛けを用意して、笑わせたりホッとさせたりするのである。呑気呆亭