10月6日(土)「父ありき」

「父ありき」('42・松竹大船)監督・脚本:小津安二郎 脚本:池田忠雄/柳井隆雄 撮影:厚田雄春 出演:笠智衆/佐野周二/津田晴彦/佐分利信/坂本武/水戸光子
★妻を失い、男でひとつで息子を育ててきた男と、その父の平凡ではあるが、誠実な生き方を心から尊敬する息子の成長を追った物語。信州の地方都市の中学教師(笠)は、修学旅行先で生徒をひとり溺死させてしまい、責任を感じて辞職。ふたり暮しの息子を中学の寄宿舎にあずけてひとり上京する。やがて息子は成長し大学を出て、父親と同じように仙台で教員となる。父子はときどき、温泉に出かけては再会を楽しむ。息子は、自分も東京に転職して一緒に暮らしたいと思うようになるが、父親に今の仕事を大事にしろと諭される……。父子で釣りをする有名なシ−ンをはじめ、小津を語る時に必ずひきあいに出される名作。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎良平が寝転がると事件が起きる。中学生の良平(津田)が父周平(笠)との食事に満腹して寝転がると、出し抜けに父の上京すなわち別離を告げられる。成人して父と同じ教師になった良平(佐野)が、久し振りに父親との時間を過ごしての別れの朝、別れの涙を見せぬために別室に移って寝転がると、父の異変を告げる女中の声に驚かされる。父であり子である者として涙なしに観ることの出来ぬ作品である。ラストの、父の同僚であり碁敵きでもあった平田(坂本)の娘ふみ(水戸)と父の遺言通り結婚して、父の遺骨と共に勤務地の秋田に向かう列車のシ−ンによって、良平の長かった孤独が救われるのを知って、観る者は涙を拭って安堵するのである。呑気呆亭