9月18日(火)「麦秋」

麦秋」('51・松竹大船)監督・脚本:小津安二郎 脚本:野田高梧 撮影:厚田雄春 音楽:浜田辰雄 出演:原節子/笠智衆/淡島千景/三宅邦子/東山千栄子/杉村春子/二本柳寛
★北鎌倉に住む間宮家には、老夫婦と病院勤めの息子夫婦と二人の子供、そして28歳になろうというのに独身の娘・紀子が住んでいる。一家の気がかりは紀子の結婚だ。両親や兄夫婦は紀子の縁談についていろいろと心配するが、本人はあまり気のりでないようす。やがて兄妹のような気軽さでつきあっていた子持ちの男と結婚しようと紀子は決心する……。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎この映画の導入部、オルゴ−ルの「埴生の宿」の音色が流れる中、間宮家のいつもと変わらぬ朝の光景が展開されるのだが、これほどに完璧でありながらさりげない完成度を見せるシ−クエンスは、大袈裟にいえば映画史上にかつて無かったしこれからも無いであろう。朝の食卓の正面に若い女の健康な食欲を見せて好ましい紀子(原)を据え、彼女を廻る間宮家の家族それぞれのなめらかな動きが、ほとんど生理的な快感を感じさせるのは、これこそ小津が目指した「行間」を読ませるということだったのだろう。次男の勇クンの正座して重ねた趾が可愛く、長男の実のさりげなく御櫃を片寄せて席を立つ動きには、ただもう感嘆するばかり。このたかだか10分ほどの導入部ゆえに、ワタクシはこれを小津映画の最高傑作であると思うのである。呑気呆亭