7月6日(金)「龍攘虎搏」

「龍攘虎搏」('38・日活京都)監督:松田定次 脚本:比佐芳武 出演:嵐寛寿郎/月形龍之介/大倉千代子/香住佐代子
★幕末の京都の街でお札踊りという不思議な乱舞がはやり始めた頃、勤皇の志士たちを次から次へと暗殺する山嶽党の暗躍が続いた。鞍馬天狗は志士たちのために奮然と立ち上がる。嵐寛寿郎月形龍之介という二大スタ−の顔合わせが見もの。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎龍が攘(はらい)虎が搏(うつ)という大層な題名が付けられているが、この映画は杉作と新吉の物語であると思う。新吉を困窮の余りに角兵衛獅子に売った母親が登場し、観客には実は新吉はその母が山嶽党の首領(月形)が甲府勤番のころに出会って産んだ子だと知らされる。杉作に手を引かれて隼の長七の家に母に会いに行った新吉が、母の顔も父の顔も知らぬ杉作に“新ちゃん、おっかさんに会えて嬉しいだろ、ね、嬉しいだろ”と言われて、自分を売った母への恨みと懐かしさと、杉作への思いの板挟みにあった新吉が、丸く瞠った目をわっと両手で被って泣きだしてしまうのである。こんな場面で新吉はどうするんだろうと思いながら見ていたのだが、ここはもうこれ以外の反応の仕方はないだろうと思わせる松田定次の心優しい演出であった。
その母は長七との争いの最中に殺され、父親である山嶽党の首領は、何度も自分の手で殺害しようとした新吉が自分の子であることを知らずに鞍馬天狗との戦いで死んで行くのだった。呑気呆亭