2月20日(金)「必殺!Ⅲ 裏か表か」

「必殺!Ⅲ 裏か表か」('86・松竹)監督:工藤栄一 脚本:野上龍雄/保利吉紀/中村勝行 撮影:石原興 音楽:平尾昌晃 出演:藤田まこと/伊武雅刀/松坂慶子/成田三樹夫/鮎川いずみ/三田村邦彦/村上弘明/柴俊夫/笑福亭鶴瓶/川谷拓三/岸部一徳/白木万里/菅井きん
★1作、2作目は集団対集団という戦いで、スト−リ−的な散漫さが目立った。しかし3作目は、主役の中村主水を孤立させることによって、物語として芯のとおったものになっている。江戸の両替商、ひいては日本の経済の元を握る影の男・真砂屋(伊武)を敵に回した主水が、社会的に窮地に追込まれる。ラストは、仕事人仲間の助けを借りて真砂屋の本拠地へ乗り込んでいく。TVシリ−ズ、約50本の演出を手掛けた工藤栄一の演出が冴え、シリ−ズ中出色のできとなった。特に最後の殺し合いは、彼一流の集団時代劇の大チャンバラが展開する。(ぴあ・CINEMA CLUB)

◎真砂屋の策謀で追い詰められた中村同心が、奉行に“こんなことぐらいでアタシャア腹は切りませんよ”と言って短刀を押し戻したときのふてぶてしい面つきが何とも好い。そもそも権力・権威を振りかざす連中への嫌悪と叛骨が仕掛け人・主水の原点であるのだから、罠に掛かった己の甘さに舌打ちこそすれオメオメと既成の武士道というモラルに従う筈はなかったのだ。それにしても己のせいであたら若い娘が死を選んだことは主水にも相当に堪えたのだったが、その主水を普段は“昼行灯”と馬鹿にしている母上(菅井)とリツ(白木)が、こんな時こそ支えてやらねばとスキャンダルのことなどおくびにも出さず晴れ晴れしくその帰宅を迎えるシ−ンには、嬉しくなって思わず涙。それだけに娘の死が仕組まれたモノだと知ったときの主水の怒りは凄まじく、そのエネルギ−がラストの大殺陣に集約されていったのだった。加えて言っておきたいのは、この頃の松坂慶子の美しさである。ことにその白い首筋の艶めかしさと言ったらない。「必殺!」シリ−ズとしては主水の人間性を描いた出色の1作である。呑気呆亭