10月4日(土)「その男ゾルバ」

その男ゾルバ」('64・米=ギリシア)製作・監督・脚本:マイケル・カコヤニス 原作:ニコス・カザンザキス 撮影:ウォルタ−・ラザリ− 音楽:ミキス・テオドラキス 出演:アンソニ−・クイン/アラン・ベイツ/イレ−ネ・パパス/リラ・ケドロワ
★カザン、カサヴェテスといった移民やその子供まで勘定に入れれば、ギリシア人のアメリカ映画への貢献は大きいが、このカコヤニスはギリシア映画界でまず成功を納め、本作でハリウッドの支援を受けた。舞台はギリシアで、窮めて風土色の強い本作は、主演にイギリスのベイツとアメリカのクインを揃え、英語で作られたギリシア映画の趣だ。英国人作家のバジルはクレタ島に赴き、ゾルバと言う男に会う。楽天的で、見るからに頑強なこの男は魂もまた壮健だった。やがて、バジルが投宿した安ホテルの元高級娼婦という女主人とゾルバは親しくなった。一方、バジルは、炭鉱の監督の息子に迫られている美しい未亡人(I・パパス)と恋仲になる。が、息子は振られたショックに海に身を投げ、未亡人は村八分にされた挙句、監督に刺し殺されてしまう。そして、女主人も病を得て没し、おまけに、ゾルバ創案の炭鉱ケーブルが竣工式の当日に壊れるが、彼はへこたれず、ギリシア特有の力強いダンスをバジルの前で踊ってみせる。未亡人の死の衝撃冷めやらぬバジルだったが、これを見て感激し、彼の手ほどきを受け、共に踊り始める…。この素敵なラストシーンまでにやたら尺数がかさみすぎている感もあるが、まさに役柄にぴったりのクインのバイタリティに圧倒される。また彼が恋する、過去の想い出の中にたたずむ女主人--ケドロヴァも好演し、オスカーの助演女優賞を獲得した。N・テオドラキスの音楽も印象的でポピュラー・ヒットとなった。<allcinema>

◎公開当時、テレビで予告編のラストのダンス・シ−ンを見て、これは名作だと確信した。それほどにこのシ−ンは衝撃的なモノであった。今回見直してみて、当時は気が付かなかったクレタ島の住民たちの習俗の恐ろしさがリアルに迫って、実はカコヤニスの狙いはここに有ったのではないかと思ったのだった。イレ−ネ・パパスの未亡人が村の男たちの欲望をことごとくはね除ける強さを持ったがために村八分にされ、遂には刺殺されてしまうのだが、暴力的な男たちよりもその背後にいる黒衣に身を包んだ女たちの陰湿な嫉妬が恐ろしかった。その黒衣の女たちがフランスから来て住み着いたホテルの女主人が死ぬと、ハイエナのような邪悪さを発揮して女主人の全ての財物を剥ぎ取って行き、哀れにもベッドに横たわる屍体を葬りもせずに放置してのけるシ−ンでは、島という閉ざされた環境に生きる連中のケダモノじみた恐ろしさを思い知らされたのだった。従ってラストのダンスシ−ンも今回は複雑な思いで見たことであった。呑気呆亭