12月2日(水)「薔薇の名前」

薔薇の名前」('86・仏)監督:ジャン・ジャック・アノ− 原作:ウンベルト・エ−コ 脚本:ジェラ−ル・ブラッシュ/ハワ−ド・フランクリン/アンドリュ−・バ−キン/アラン・ゴダ−ル 撮影:トニ−ノ・デリ・コリ 音楽:ジェ−ムズ・ホ−ナ− 出演:ショ−ン・コネリ−/F・マ−リ−・エイブラハム/クリスチャン・スレイタ−
★1327年、ヨーロッパで宗教裁判の嵐が吹きあれている頃、北イタリアのベネディクト修道院に、バスカヴィルのウィリアム(ショーン・コネリー)と見習修道士のアドソ(クリスチャン・スレーター)が重要な会議に出席するために向かっていた。キリストの財産をめぐる教皇派とフランチェスコ修道会とその争いをまとめるための会議であった。荘厳な修道院に着くとすぐ、ウィリアムは、若い修道士が不審な死を遂げたことを知る。修道院長(ミシェル・ロンダール)によれば、死んだ僧は、文書館でさし絵師として働いていたということだった。殺人のにおいがするこの事件の解明を、ウィリアムは頼まれることになったが・・・。(goo映画)

◎驚くのはこれだけのセットとロケ地を選んだスタッフの執念と力量である。この作品の魅力はいかにも西欧中世の雰囲気を再現したと観る者に納得させる映像にあるだろう。冒頭に近く厨房で働く僧たちが、解体した豚から絞った血液を大事に貯めているのは腸詰めを造るためなのだろうか。僧院に貢ぎ物を納めに来る貧者たちの描写もリアル感があって、こんな描写の一々の積み重ねが圧倒的な重厚感をこの作品に与えている。ただ、残念ながらワタクシの観たバ−ジョンは英語版であったのと、主役が米国の有名俳優であることとかのために最初から最後まで違和感があった。興行的には有名俳優を使うことのメリットはあるのだろうが、これだけの準備をした努力が主役の顔一つで台無しになってしまったように思う。またアドソを演じたクリスチャン・スレーターが妙に色っぽくて、その顔のアップを演出が多用するので恐らく僧院内に蔓延していたであろう同性愛の暗示が鼻に付いて、せっかく美術スタッフが盛り上げた雰囲気が薄められてしまったのも惜しまれる。出来ればイタリア語バ−ジョン(DVDには有るのか?)で見直してみたいものだ。呑気呆亭

12月3日(木)「汚れた血」

汚れた血」('86・仏)監督・脚本:レオス・カラックス 撮影:ジャン・イヴ・エスコフィエ 音楽:ベンジャミン・ブリテン/セルゲイ・プロコフィエフ/シャルル・アズナブ-ル/デヴィッド・ボウイ/セルジュ・レジアニ 出演:ジュリエット・ビノシュ/ドニ・ラバン/ミシェル・ピコリ/セルジュ・レジアニ
ハレー彗星が再び近づく近未来を舞台に、才人カラックスが独創的な映像世界を展開するSF的なフィルム・ノワールにメロドラマの要素が溶け込んだ作品で、熱狂的に世界の若い観客に迎えられた。愛なきセックスによって伝染する“STBO”という奇病が蔓延するパリで、ジャンという男がメトロで死ぬ。友人マルクは彼が金貸しのアメリカ女に殺されたのではと疑いを持つが、彼女から汚れた金を借りていたのはマルクも同じだった。その返済のため、ある製薬会社が開発した“STBO”の特効薬を盗み出そうと誘われたジャンの息子アレックスは、マルクがつれ添うアンナに密かに心魅かれしぶしぶ承諾。計画は実行されるが、そこにアメリカ女の目は光っていた…。マルクにM・ピコリ、アレックスにD・ラヴァン、アンナにJ・ビノシュ。エスコフィエの、特に夜間撮影が素晴らしい。ビノシェが風のように走り、まさに風になってしまうラスト・ショットが鮮烈だった。
<allcinema>

◎前作の「ボ−イ・ミ−ツ・ガ−ル」を再見してラストまで見終えることが出来なかったので、これはどうかなと変な期待を持ちながら見始めたのだが、これは中々面白かった。筋立てはあまり練られたモノとは思えなかったが、随所に挿入される斬新な映像が映画を見るということの面白さを与えてくれたし、それよりも何よりもジュリエット・ビノシュの天与の美貌がこの作品の魅力のすべてだと言っていい。おかげでドニ・ラバンも光っていた。呑気呆亭

12月4日(金)「ビバリ−ヒルズ・バム」

「ビバリ−ヒルズ・バム」('85・米)製作・監督・脚本:ポ−ル・マザ−スキ− 原作:ルネ・フォ-ショワ 脚本:レオン・カペタノス 撮影:ドナルド・アクアルパイス 音楽:アンディ・サマ-ズ 出演:ニック・ノルティ/リチャ-ド・ドレイファス/ベッド・ミドラ−
ビバリーヒルズの金持ち一家に入り込んだ浮浪者が、持ち前の教養と性格で次第に皆を感化し始める。ジャン・ルノワールの名作「素晴らしき放浪者」(32)を、舞台をハリウッドに移してリメイク。P・マザースキーが上流階級の馬鹿馬鹿しさを笑い飛ばしている。浮浪者に扮するN・ノルティの豪快なキャラクターと、彼に振り回されるR・ドレイファスの対比が面白い。<allcinema>

◎ボロボロ・でぶでぶで、もうこれ以上堕ちようがないと開き直った浮浪者が、相棒のワン公にも遂に愛想を尽かされてペットロスに陥るという冒頭の設定が面白い。絶望した浮浪者が成金のドレイファスの邸宅に紛れ込んで、プ−ルで自殺を図ることから物語が動き始める。迷惑を受けた側のドレイファスだが、虚栄心に裏打ちされた博愛精神から浮浪者を世話することになるのだが、最初は浮浪者を毛嫌いしていた家族たちが次々に彼に影響されるに及んで、主役の座を奪われる恐れに本来の素朴な差別感を露わにし始める。そのあたりのドレイファスの演技が見もので、浮浪者ノルティのふてぶてしい演技との対比が素直に笑わせてくれる。呑気呆亭