11月27日(金)「ダブル・ボ−ダ−」

「ダブルボ−ダ−」('87・米)監督:ウオルタ-・ヒル 原案:ジョン・ミリアス/フレッド・レクサ− 脚本:デリック・ウオッシュバ−ン 撮影:マシュ−・レオネッティ 音楽:ジェリ−・ゴ−ルドスミス 出演:ニック・ノルティ/パワ−ズ・ブ−ス/リップ・ト−ン/マイケル・アイアンサイド/マリア・コンチ−タ・アロンゾ/クランシ−ブラウン
★国境警備にあたるテキサス・レンジャ−の男と、メキシコからの麻薬輸入組織。それに組織壊滅のために作られた特殊工作部隊が加わって、ハ−ドなアクションが展開される一編。アクション監督ヒルの持ち味と原案のミリアスの要素が、良くも悪しくも同居している。(ぴあ・CINEMA CLUB)

ニック・ノルティが引き締まった体でやたら格好良くて、前年の「ビバリ−・ヒルズ・バム」のメタボなホ−ムレスのおっさん体型からよくもここまで絞ったものだと感心する。そのノルティがメキシコとの国境に近い田舎町の保安官役として、メキシコの麻薬組織と特殊工作部隊を向こうに回してク−ルな活躍をする。プロ中のプロである特殊工作部隊の面々は当初ノルティを田舎町の保安官として嘗めてかかるが、次第にそのガッツを認め始めて、部隊の指揮官(アイアンサイド)の裏切りへの怒りと保安官への共感が綯い交ぜとなった、「ワイルドバンチ」のクライマックスにも似た死への舞踏になだれ込んで行く。既に軍歴では死者とされている彼らを甦らせ最後に生の輝きを取り戻させたのは、ノルティの背筋を伸ばした頑固な生き方への共感であった。呑気呆亭

11月26日(木)「スイ−ト・スイ−ト・ビレッジ」

「スイ−ト・スイ−ト・ビレッジ」('85・チェコスロバキア)監督:イジ−・メンツェル 脚本:ズデニェク・スベラ−ク 撮影:ヤロミ−ル・ショフル 音楽:イリ・ブロゼック 出演:ヤ−ノシュ・バ−ン/アリアン・ラブダ/ルドルフ・フルシンスキ−/ペトル・チェペック/リブシュ・シャフランコバ−
チェコの小さな村を舞台に、ちょっと頭の弱い青年と彼の相棒で父親代わりの男の二人を通して、村の楽しくもあわただしい日々を心暖まるタッチで描いた優しい映画。のどかな田舎の風景と生き生きとした登場人物達が何よりも魅力的。話らしい話が無い訳でもなく、繰り広げられる数々のエピソードも愉快。<allcinema>

◎最初は見ていると頭が弱く無駄にのっぽなオチェクの間抜けさに腹が立ってくる。オチェクとは対照的な短躯で太った体格の相棒パヴェクがイライラするのも無理はない。その二人の仲を中和し結び付ける媒体として、詩人で夢想家で運転音痴のドクタ−が物語の狂言回しをする。不倫有り、陰謀有り、事故有り、喧嘩有り、祭りの騒ぎ有り。笑わせるのが、トラクタ−に男が轢かれたと聞いて駆け付けたドクタ−が発見したのが、畑に残った人型だけで犠牲者の跡形もなく、脇でピョンピョン跳ねる不死身の男を発見するというギャグで、このギャグは後にドクタ−がブレ−キを掛け忘れた自分の車に轢かれるエピソ−ドに受け継がれたりして、全編にさりげなく伏線を置きながら、思わぬ所でギャグを入れて行くという、実に巧みに造られた物語りである。ラストは仲直りしたオチェクとパヴェクの凸凹コンビのぴょんぴょんと跳ねる息の合った歩行のギャグでありました。呑気呆亭

11月25日(水)「愛と哀しみの果て」

愛と哀しみの果て」('85・米)製作・監督:シドニ−・ポラック 原作:アイザック・ディネ−セン 脚本:カ−ト・リュ−ドック 撮影:デビッド・ワトキン 音楽:ジョン・バリ− 出演:ロバ−ト・レッドフォ−ド/メリル・ストリープ/クラウス・マリア・ブランダウワ−/マイケル・キッチン/マリック・ボ−ウエンズ
★20世紀初頭のアフリカを舞台に、愛と冒険に生きたひとりの女の半生を描いた一大ロマンス。スウェーデン貴族と結婚し、ケニアに渡って来たデンマーク人の令嬢カレン。だがそこには幸せな結婚生活は無く、農場経営も思うように進まない。そんな彼女の前にサファリのガイドを務めている冒険家が現れた…。波乱万丈のストーリー、アフリカの雄大な景観、ストリープとブランダウアーの丁々発止の演技合戦と見どころは多いが、あまりにも上映時間が長すぎる。アカデミー作品・監督・脚本・撮影・作曲・美術・音響と主だった部門を独占した作品ではあるものの、時として冗漫な語り口は万人向けとは言い難い。<allcinema>

◎確かに長かったが決して退屈はしなかった。観終えてこれほどに爽やかな気持ちになる映画というものも珍しい。それが何に由来するかと考えて思い当たったのは、登場する人物たちが誰も類型として描かれていないということではないかということだった。それは下世話に言えば三角関係を形成するカレン(ストリープ)、ブロア(ブランダウワ−)、デニス(レッドフォ−ド)の三人だけではなく、彼らの友人のコ−ル(キッチン)にしても、カレンの執事役のアフリカンにしても、部落の長老、若者、デニスの相棒で台詞一つないのに印象的な存在のマサイの戦士、そして物語の始めでは女性であることから入室を拒否しながら、独り敢闘・破産してアフリカを去ろうとするカレンの潔さに敬意を表して、“一杯飲りませんか?”と誘う社交クラブの面々のフェアなスマ−トさ、そしてデニスの墓に詣でる雌雄のライオンに至るまで、心に深々と染み入るように描かれている。素晴らしい映像でアフリカの景色を捉えて見せてくれたキャメラ、モ−ツアルトを効果的に使った音楽、そしてモチロン、カ−ト・リュ−ドックの脚本とシドニ−・ポラックの演出。何度観ても初めて見るような思いにさせてくれる作品である。呑気呆亭

11月21日(土)「シ−ズ・ガッタ・ハヴ・イット」

「シ−ズ・ガッタ・ハヴ・イット」('85・米)監督・脚本:スパイク・リ− 撮影:ア−ネスト・ディッカ−ソン 美術:ロン・ペイリ− 音楽:ビル・リ− 出演:トレイシー・カミラ・ジョ−ンズ/トニ−・レッドモンド・ヒックス/スパイク・リ−/ジョン・カナダ・テレル/ジョイ・リ−
★ニューヨーク・インディーズ映画の雄であり、ブラック・ムービーの旗手である天才的映画監督スパイク・リーによる長編第2作。やさしくて実直な好青年ジェイミー、ナルシストでルックス抜群のグリアー、失業中だが持ち前の明るさを失わないマーズの3人の恋人と付き合っている、黒人女性ノーラ。彼女は束縛を嫌い、自由で気ままな生活を楽しんでいた。そんなある日、こんな恋愛ゲームに耐えきれなくなったジェイミーは、彼女に決断を迫って来るが…。長編第1作「ジョーズ・バーバー・ショップ」で評論家から絶賛を博したスパイク・リーが、弱冠29歳の時に約3千万の低予算ながらも卓越したアイディアで撮り上げた作品。画面は白黒、キャストは全て黒人で描かれたこの初期の作品でも、ハイテンポなカッティングやイキなセリフ、センスのいい音楽など、この後の彼の才能が昇華してゆく片鱗が見て取れる。彼の才気と独特のユーモアが溢れる、初期の傑作の1本。
<allcinema>

◎公開当時はその設定の斬新さが受けたのだろうが、今となって見るとすべってが陳腐化してしまっている。この設定のグル−プがボクラの60年代に実際に成り立っていたことを知っているが、これが成り立つためには中心に生きる女王様が魔術的な魅力を持っていなければならないのだが、このモナにはまったくそんな魅力を感じなかった。そのモナを巡って神経症で色情狂の男たちがビタ銭沙汰を繰り広げる。モナは何をガッタしたのだろうか。正直疲れる映画でありました。呑気呆亭

11月20日(金)「愉快なゆかいな殺し屋稼業」

「愉快なゆかいな殺し屋稼業」('85・米)監督:アンソニ−・ハ−ベイ 製作・脚本:マ−ティン・セヴィバック 音楽:ジョン・アデイソン 出演:キャサリ−ン・ヘップバ−ン/ニック・ノルティ/エリザベス・ウイルソン/チップ・ジェン/キット・ル・フィ−ヴァ−
★独り暮らしのマダム・クイグリ−と殺し屋シ−モアとの出会いは殺人事件。コンビを組んで始めた仕事は死にたくて死ねずにいる老人相手の殺し屋稼業!? 戦慄どころか依頼殺到の反響ぶり、けれども二人の間には・・・。
説明抜きの大女優キャサリ−ン・ヘップバ−ンと個性派アクションスタ−、ニック・ノルティの絶妙な演技が冴える都会派アクション・コメディ。手ごたえ充分の快作です。(VHSの解説)

◎強面の殺し屋シ−モア(ニック・ノルティ)が罪悪感に悩んで、商売道具の右腕の不調や鼻血の頻出に襲われ、怪しげな髭面の精神科医に1時間75ドルも払って治療を受けているという設定が笑わせる。そのシ−モアの殺しの場面を偶然目撃した老嬢クイグリ−(キャサリ−ン・ヘップバ−ン)が、シ−モアに自分を殺してくれるように依頼に現れるところから奇妙に倒錯した物語が始まる。ミズ・クイグリ−は1000ドルの依頼料を工面するために、死にたくとも死ねないという同じ悩みを持つ男性をこの奇妙な企てに誘い込む。この男性がひょんなことから頓死し、ミズ・クイグリ−はそれをシ−モアの手際と思い込み吹聴して廻ったために、5人の友人が志願者として名乗りを上げる。都合で一人抜けた4人を歌を唄っている最中に痛みも苦しみもなくあの世に送ったシ−モアは、この殺しについては罪悪感が起こらなかったことで、長年の職業上の悩みから脱却することが出来て歓喜し、クイグリ−を“ママ”と呼び始める。その“ママ”ことミズ・クイグリ−はシ−モアを老人ホ−ムに案内し、ベッド上で植物人間化したニンゲンたちを見せ、この世の中にはいかに多くの老人たちが死にたくとも死ねずにいることを知らしめ、シ−モアにかつて持ったことのない使命感と生き甲斐を与えるのだった・・・。これから再逆転が始まるのだが、それは見てのお楽しみ。ラストのオチも悪くはない。なによりもこのブラックな設定が今となってみればより切実なモノとなっていることの皮肉を思う。呑気呆亭

11月18日(水)「冬の旅」

「冬の旅」('85・仏)監督・脚本:アニエス・ヴァルダ 撮影:パトリック・ブロシュ 音楽:ジョアンナ・ブリュドヴィッチ 出演:サンドリ−ヌ・ボネ−ル/マ−シャ・メリル/ステファヌ・フレス/ヨランド・モロ−/ジョエル・フォッス
★実話を基にした、アニエス・ヴァルダ監督作品。少女がひとり、行き倒れて寒さで死んだ。誰に知られる事もなく、共同墓地に葬られた少女モナ。彼女が誰であったのか、それは彼女が死ぬ前の数週間に彼女と出会った人々の証言を聞くほかなかった。そして映画は、バイクの青年たち、ガソリン・スタンドの主人、さすらいの青年ダヴィッド、山にこもって山羊を飼う元学生運動のリーダー、病んで死んでゆくプラタナスを研究する女教授マダム・ランディエなど様々な人々の証言を元に、彼女の軌跡を辿ってゆく……。これは現代社会にとって“自由とは何か”という、これまであまりに語られすぎた、あまりに汚れきった観念を、新しく洗い直し、とことんまで正面から追求しようという姿勢に満ちた作品である。がゆえに、決して夢物語の様な陳腐な形で“自由”というものを扱ってはいない。この現代社会で、真の自由を得ることがいかに難しく、そして過酷な事であるかが、切々と語られているのだ。そして真の自由を得る為に欠くことの出来ない、表裏一体の、“孤独”というものにも、その視点は同等のスポットをあてており、それらを変な感情移入をせずに、引いた視点で淡々と描いている。これほどまでに“自由”と“孤独”というものをキチンと描いた映画は他に見た事がない。本作は、公開当時は余りスポットを浴びなかった作品ではあるが、実に素晴らしい、傑作といえる作品である。<allcinema>

◎ヴァルダにしては粗末な味の映画を作ったものだ。実話を基にしたとのことだが、そうした姿勢はしばしば実話であることに寄りかかって、何を語っても許されると思いこんでしまう。この浮浪者の少女は文明の周辺をうろつき廻ってそのおこぼれかすめて楽に生きて行くことしか考えていない。旅をしているらしのだがやたらヒッチハイクで車に乗りたがる。その旅路には目的地が無く狭い範囲を堂々巡りをしているようだ。描かれるのは彼女がその周辺をうろつき廻る文明生活という惨めな三文芝居でしかなく、決して自然の厳しさの中に踏み込もうとしない。冒頭ヴァルダは“少女は海から来たのではないか”として冬の海から上がる少女の姿を効果的な音楽とともに描くのだが、ラストでは、“嘘をつけ!”と言いたくなるほどの味気なさを感じたのだった。呑気呆亭

11月14日(土)「ナビイの恋」

「ナビイの恋」('99・東京テアトル)監督・脚本:中江裕司 脚本:中江素子 美術:真喜屋力 撮影:高間賢治 音楽:磯田健一郎 出演:平良とみ/西田尚美/村上淳/登川誠仁/平良進/アシュレイ・マックアイザック/嘉手刈林昌
沖縄本島から少し離れた粟国島。奈々子は都会の喧騒に疲れて久しぶりに帰ってきた。島までの小さな船には一人旅の青年・福之助と伊達な白スーツの老紳士が同乗していた。そしてその老紳士こそ、60年前に奈々子の祖母ナビィが最も愛していた人だった……。物語はふたつの三角関係を軸に、沖縄特有の文化やジャンルを越えた音楽と共に老若男女の恋の思いを夢とも現実とも取れるファンタジーとして描いている。監督は『パイナップルツアーズ』『パイパティローマ』の俊英・中江裕司
 ナビィを演じるのは、後にNHKの朝の連続テレビ小説ちゅらさん」の好演もあり、いまやすっかり全国区の人気を獲得している平良とみ。一方、オジィ役の登川誠仁さんは三線の第一人者で、数多くの一流ミュージシャンを輩出している沖縄にあっても特別なカリスマ的存在。そのキャラクターに惚れ込んだ中江監督が、シブる登川さんをなんとか口説き落として出演に漕ぎ着けた。そんな、まさに沖縄を代表するオジィとオバァの顔合わせが実現したという意味でもなんともうれしい一本。<allcinema>

◎ラストのタイトルロ−ルに挿入歌の一覧が掲げられている。「ひょっこりひょうたん島」「下千鳥(登川誠仁)」「海ぬチンポ−ラ(登川)」「じゅりぐわぁ小唄(嘉手刈林昌)」「ザ・スタ−・スパングルド・バナ−(三線登川)」「六調節(山里勇吉)」「クレイグニッシュ・ヒルズ(ケルト民謡)マックアイザック」「ケルティック・リ−ル(ケルト民謡)マックアイザック」「トウバラ−マ(八重山民謡)マックアイザック」「国領ジント−ヨ(登川)」「月ぬ美しや(八重山)山里」「むんじゅる節(照喜名朝一)」「夏の扉西田尚美)」「ロンドンデリ−の歌(アイルランド民謡)山里/マックアイザック」「ハバネラ(カルメン〜恋は野の鳥)兼島麗子」「アッチャメ−小(登川)」
老若男女、ふたつの恋の三角関係のあれこれの展開に、これだけの歌がちりばめられていて面白くないわけがない。平良とみの可愛らしさはもちろんだが、沖縄三線の第一人者といわれる登川誠仁の素人とは思えない軽妙なアドリブに富んだ演技こそが、この映画を成功させた第一の功であったろう。呑気呆亭